第5話 僕タチハ死ンデシマッタ
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覚える。
「どうだった?」
レインコートを吊るし終えると、マキメが小声で聞いた。意味があって小声なのではない。小さな声でも嫌というほど聞こえるのだ。それほど静かだ。
「どこもかしこも幽霊だらけです」
陰鬱な調子で答えると、岸本が後を引き継ぐ。
「深夜だったが、あの祭りの最中だったからな。多くの守護天使がログインしていた。それが被害を大きくした。その上どうも今までの幽霊どもとは様子が違う」
「死への自覚がないからでしょう」
と、マキメ。
「あまりに多くの人が、一瞬で死んでしまいましたから。いずれにしても持ち主を失った守護天使を放置しておくわけにはいかないよ。死んだはずの人、生死不明の人、そんな人と同じ姿の存在が都市をさまよっている状況は、生き残った人には辛すぎる。……だから、ほとんど誰も外に出ていなかったでしょう。何も見ないために。幽霊たちを駆除しない限り、この都市は滅ぶしかない」
幽霊には、自分たちが殺人者に見えるだろう、とクグチは考える。駆除対象の電磁体が持ち主と自己との境を失い、持ち主の人格を写し持ち、自分を人間だと思い、自分を生きていると思うなら、それを駆除する存在は、彼らの目には殺人者にしか見えない。
それならハツセリはどうだろう。
自分を人間だと思っている仮想人格を消去するのが殺人なら、自分を仮想人格だと思っている人間を殺すのは、殺人にならないのか?
「かと言って見つけ次第駆除していたんじゃ、人もUC銃もいくらあっても足りん」
今度は岸本。
「この電力不足でUC銃の充電などおちおちやっとれんからな」
それに、指示を出す人間がいない。
クグチは二日前に尋ねていた。
『都市庁の花井とかいう人はどこに行ったんですか?』
『逃げた』
『向坂さんは?』
『生死不明だ』
こんな有り様である。
「明日宮」
「はい」
「いつから気付いていた?」
クグチは首をよじって岸本を見た。
「何がですか」
「幽霊が……廃電磁体が他人の守護天使を汚染し、人を自分は死者だと思いこむように洗脳させる危険性があることに、だ。何故そんな危険性があることを黙っていた」
失礼にならない程度の眉を顰めた。
「そんなことは憶測の段階に過ぎなかったんです。それに、平和な時に俺がそれを言ってもたぶん誰も信じなかった」
「……それもそうだ」
「俺だって、そんなことが起こり得るなんて信じていなかった。今でも半信半疑です」
「証明されるかもな。この町が巨大な実験場になる」
静寂が深みを増し、雨の陰気が少しずつ、少しずつ窓をすり抜けて部屋に満ちてくる。
ハツセリがどこに行ってしまったのか、クグチは知らない。避難所にもいない。誰に聞いても情報を得られない。彼女は、彼女しか知らない場所に隠れてしまったのだろうか……
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