十一幕 野ウサギが森へ帰る時
4幕
[1/2]
[8]前話 前書き [1]次 最後 [2]次話
フェイはユリウスに連れられるまま、人目を避けるように路地裏ばかり通って、トリグラフ団地に戻って来た。
「ここでルドガー、待つの?」
「いや。置き手紙だけ残して、マクスバードに行く。あそこは今、〈カナンの地〉の出現でエージェントが封鎖しているはずだからな」
ユリウスがマンションフレールに入って行く時、フェイは共に入らなかった。
フェイがマンション出入口近くのベンチに座って待っていると、ユリウスが出て来て、驚いた顔でフェイを見下ろしてきた。
「ルドガーのとこに戻ってよかったんだぞ?」
「なんか、離れちゃいけない気がしたの」
「それも〈妖精〉の力、か」
「そうじゃないんだけど……ねえ」
フェイは立ち上がり、ユリウスの正面に立って彼を見上げた。
「結局、〈カナンの地〉にはどうやって入るの?」
すると驚くことに、色々なことを秘してきたユリウスなのに、呆気なく答えた。
「〈魂の橋〉。強い力を持ったクルスニクの一族を一人、生贄にするんだ」
フェイはまた膝から崩れ落ちそうになったが、持ち直した。
繋がったからだ。エルの変心と思われた行動が何を――誰を守るためのものだったのか。
(お姉ちゃん、たったひとりでツライの抱えて、ルドガーにキラわれるかもしれないのに、冷たいコトバで遠ざけてそんなのも知らないで、わたし…ヒドイ…ごめんなさい……! ごめんなさい、お姉ちゃんっ!)
フェイは顔を覆って俯いてしまいそうになって、はっと、目の前のユリウスと、ルドガーの関係を、思い出した。
「おじさん、死ぬの?」
〈魂の橋〉にはクルスニクの生贄が必要。そして、ユリウスはルドガーの兄。この二つを結びつければ、ユリウスの取らんとする行動は歴然としていた。
ユリウスは黙して目を伏せた。
それが言葉より明確に肯定を物語った。
「や――やだ、ダメ! おじさん死んじゃイヤ!」
「もうこれしかないんだよ」
「やだやだやだ! だって、いっぱいいなくなったのに! ミラもお姉ちゃんもいなくなって、おじさんまでいなくなったら、ルドガーほんとに独りぼっちになっちゃう! これ以上、ルドガーの前から誰もいなくならないで!」
「ルドガーにはたくさんの仲間がいるじゃないか。俺一人いなくなったところでどうってことない」
「ある! あるの! だってみんなパパのほんとのトモダチじゃないもん!」
宥めるようだったユリウスの笑顔が困惑に変わる。
「ジュードたち、セカイのためなら大切な人でも殺せる。パパは、セカイが滅んでも、大切な人は殺せない」
――ペリューン号でエルが危なかった時も、ルドガーはミラの手を最後まで離さなかった。
――ヴィクトルとの命懸けの激闘の
[8]前話 前書き [1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ