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トワノクウ
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第十八夜 千草の蜃(三)
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らい分かってら。恩人に礼の一つも言えねえんじゃあ江戸っ子の名が泣くってもんよ!』

 この瞬間、露草は平八を怒鳴りつけたい衝動でいっぱいだったのに、言葉が一つも出てこなかった。殴りたいとさえ感じたのに、拳どころか全身が震えて動けなかった。

 この時、何かを言えていれば、露草の結末はまた違ってきたのだろう。

 二度目の追手は、過日取り零した村人が何人か。今度は苦戦を強いられた。
 ここで再び人間を殺せば、このお人好しの友人は心を痛める。痛めてなお、露草に対して笑いかけるために無理をするのだ。
 それを思えば、二度は、できなかった。

 その迷いが露草の命運を分けた。

 ためらいに動きを鈍らせていた露草を、背後から鉛弾が襲った。

………

……




「――とまあ、以上がこいつの顛末なわけだ」

 梵天の手から(しん)が離れ、露草の体内に戻っていった。

「馬鹿な奴だ。妖のくせに人に情を移したりして」
「ばかだとしても、――」

 責められるいわれはありません。とても価値のあることです。種族を超えた友情なんてすごいことです。

 そう言いたかったが、梵天の表情を見て、慌てて思い直した。

 妖と人が結んだ友情が尊いものであることくらい、梵天とて分かっているし、露草を責めてもいない。人に情を移して露草が傷つく結果になったのを、梵天は憂えているのだから。

「『ばかだとしても』、何だい」
「……私は、羨ましいです。露草さんと平八さんみたいな関係」

 嘘ではない。彼らのように薫や潤と強い絆で結ばれたかったという願いはある。

「どうして上手く行かないのでしょうか――ただ、楽しく一緒に過ごして、語らいたいだけなのに」
「人と妖だから」

 速やかに提示された解答に、くうは喉が絞められる心地がした。

「――と一括りにできれば簡単なんだろうが」
「え?」
「『人と妖は何が違う?』という疑問を持った馬鹿どもが昔いてね。腹が立つが俺もその答を見つけていない」

 梵天は、懐かしさの中に憫わしさを潜ませて、語った。

「それをお聞きになったのは人ですか? 妖ですか?」
「両方だよ。俺の育ての親と、古い付き合いの人間」
「お友達ですか」
「一応そう答えて差し支えないんだろうね」

 梵天の性格を考えればこの答えは肯定だ。妖の頭目にさえ人間の友人がいる。ひどく複雑な思いだった。

「明日にはまた会えるように普通に別れて、再会したらのっぴきならない窮地だった。そういうことがこれで三度目≠セ。どうも俺はそういう巡り合わせらしい」

 自嘲というよりは苦笑に近いそれに至るまでに、彼は何度の後悔や懊悩を経たのだろう。

 可哀想だとか。同情とか。切
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