トワノクウ
第十八夜 千草の蜃(一)
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いくうではない。鎖国が長かった分異質≠ヘアレルギーだ。
「確かに妖ではなかった。そうであっても男は元来、人や妖に無頓着というか……露草と共にいたせいか境界が曖昧になっていたようである。深く考えもせず手元に火種を置いて、と露草もボヤいておった」
「いい人だったんですね」
「しばらくは波風も立てずにいたが、ある日突然、その童女を巡って人間同士で争いが起きた。男が話すところによると、童女はその見目から、とある村で鬼神として村八分にされていたという」
くうの脳裏に朽葉と犬神の話が蘇る。守り神として奉られながら、次第に鬼として忌避された、犬神の子。
「童女は村を逃げ出して男に拾われたが、それがたまたま村人に見つかって打ち据えられ、童女は連れ戻されそうになったと」
「――吐き気がしますね」
朽葉のように、また悪意という檻に閉じ込め、凶事も天災もその童女のせいにする腹積もりだったのだろう。
「男は童女を連れて逃げた。露草はそれに同道し、男を守って村人に撃たれたと思われるのである。治療はしたが、一向に目覚めぬ」
「なるほど――」
空五倍子は「撃たれた」と言った。銃弾のせいだろうか? 摘出できなかった銃弾が樹にとって毒になるように、露草の目覚めを妨げているとは考えられないか。
くうの仮定が正しければ、くうがすべき治療は銃弾の摘出。
「白鳳?」
「――っあ、すいません! 考え込んじゃいました」
弱気になるな。梵天はそのためにくうを天座に連れてきたのだ。彼が望むところに応えなければ、くうはここにいられない。
「梵はずっと露草の目覚めを待っておる」
「あのお二人、どういう関係なんですか?」
大切な相手だから助けたいのだろうとは察せられたが、その関係性までは想像が及ばなかった。
「うむ……強いて言うなら、兄弟、であろうか?」
「似てない兄弟ですね」
「獣妖と樹妖の異種子であるゆえな。我が天座に加わるずっと前、露草は生まれた時から梵と共に在った。養い親は同じというから兄弟と呼んで差し支えないと思うのだが、ただ兄弟と括るには、今もって両名複雑な心中があるようにも見えるのである」
兄弟同然の相手なら助けたくて当然だ。両肩に乗った責任がさらに重くなった。
くうは指を揃えて空五倍子に頭を下げた。
「貴重なお話をありがとうございました」
「うむ。参考になったならば重畳。ところで白鳳よ、今日は何か食べたか?」
「いいえ。忘れてました」
「梵に話を聞きにいく前に、腹に何か入れたほうがよいのである。鳥妖の餌場に案内するのである」
鳥のエサというと昆虫や魚や小動物。湧き上がりかけた食欲が失せた。
「数日前まで人の身であったおぬしに蚯蚓や蜘蛛を食せとは言わ
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