先を見るしか叶わぬ龍に
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のが人の性。されども華琳は聞かない事にした。聞いては面白くない、と思ったのかもしれない。
小気味良く、足音が鳴った。偶然か必然か、二人だけの場を終わらせる時間がやってきた。
侍女が一人、言伝を伝えた。
二人にとっては待ちに待ったモノ。
『孫策が洛陽に到着』
侍女を下がらせた後、瞬時に思考を切り替え、華琳は緩い息を吐きだした。
「残念だけれど……あなたと二人きりで話す時間は終わりのようね」
「最期の仕事がやってきたってわけだ」
不意に、華琳の胸に寂寥が圧し掛かる。
ただの敵。そうは思えなかった。彼女は覇王。敵味方に問わず、才ある者の消失が……やはり惜しい。
明日か明後日か、長くとも数日後。旧き龍の命が終わり、かくも儚く散り去る。
東屋に涼しげな風が一陣吹いた。揺れ、棚引く金色の髪。灼眼は優しげで、哀しく思えた。
「……楽しかった?」
友達に話しかけるように、恋人に話しかけるように、華琳は尋ねた。年の差など既に気にしていない。ただ、自分と戦えたはずのモノに、振り返ってみてどうか、と聞いてみたかった。
「……もっと楽しそうなもん見つけちまったから、羨ましいってのが本音。でも、楽しかった。幸せもあった。腹も膨れた。後はオレのやって来た事を信じるだけだ」
含ませるのは自分が残した策についてだと予想が出来た。
自分にそれが向いているのだろうと分かるが、読み解き、越える事が華琳に出来る礼の返し方。
華琳は彼女と違い、まだ乱世を続けて行けるから。
「なら、私の勝ちね」
「いいや、お前の負けだ」
物騒な話であるのに、彼女達は少女のような笑みを浮かべていた。
ただ、劉表の表情は大人びたモノにも見えたが……謁見の間でのように、悪辣な笑みにすぐ変わる。
のんびりと立ち上がって、昏い暗い瞳を華琳に向けた。
「キヒヒッ、“黒麒麟”と出会っちまったのは……お前にとっては不幸だったのかもしれねーな」
もう御使いとは言わず、初めの二つ名を出した劉表に、すっと目を細めて向けた。
「きっと前までのお前なら……まだ救いがあった。でもお前はもう、救われないだろう」
曖昧にぼかされた真意は分からない。自分が救われない、と言われて良い気がするはずもなく。
他人に決めつけられるのは、華琳の心に一番苛立ちを生むモノだ。
口を開く前に、劉表はべーっと舌を出した。赤い、赤いその舌は、何を喰らおうとしているのか、華琳には読み取れなかった。
「“覇王”になるだろうお前に、“賢龍”が予言してやるよ。乱世の果てにお前は死ぬしかなくなるだろう。世を喰らうから、世を喰らわずにはいられないから……黒麒麟と共にあるのなら、お前はもう、引き返せない」
――勝てなけれ
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