先を見るしか叶わぬ龍に
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まで違う。
華琳の中では結論が一つ。目の前の王は……覇王に足り得るモノ。
もし、違う姓を持っていたなら、彼女は華琳と同じく世を制する為に動けたであろう。狡猾に、知を以って武を操り、己が望む世界を顕現させる為に動けたであろう。
病に身を侵される前に、虎を喰い殺す程度では満足せず、もっと、もっと……と。
「後悔しているのかしら?」
華琳が返したのは純粋な興味からだった。
興味本位の“もしも”の可能性があったなら、では無く、進んだ道に後悔を覗かせるモノかどうか、聞いてみたかった。
「……んなもんは無い。オレは劉表で、それ以外はオレじゃない。後悔なんざしてやるか。願ってもやんねー、祈ってもやんねー。オレはオレとして生きてんだ。あとな、昔に戻りたいだなんてのも、欠片だって思わねーよ」
華琳の桜色の唇から、感嘆の吐息が零れた。口元は自然と吊り上る。
沸き立つ感情は、嬉しさ。
劉表から向けられた笑みは子供っぽさが漂っていた。彼女はただ、時代に選ばれた華琳が羨ましいのだ。
「お前もだろ?」
投げかけられた言葉に、華琳は表情を緩める。それは同じモノを前にしたから出た微笑み。
その言葉は華琳に対する意趣返し。自分の場合は名の違いだが、お前の場合はこうだろう、と。
「当たり前でしょう? 私はこの世にただ一人の曹孟徳。やり直せる人生など、私にとっては意味も価値も無い。等しく与えられた命を輝かせて、己が授かりし才を磨き上げてこそ、私は私として胸を張って生きられる。後悔などするはずも無い」
堂々とした宣言には決意を含ませて。
華琳の頭には一つの光景が思い出される。
覇王には届かないモノが居た。そうして壊れたモノが居たのだ。
愛する者に懺悔を零し、自責の罪過に耐えきれず……救いたくても救えない命を背負い続けて、突き進んだ先で矛盾に潰れたあの男。
絶望の淵で何を思ったのか、後悔していたのだろう、と華琳は思う。
――巻き込んでしまったモノへの懺悔は……自分の道を自分で否定しなければ零すはずもないのだから。
華琳は自分の生きてきた道を疑う事は無い。やり直しを求める事もしない。どんな結果になろうと受け入れる……では無い。必ず己が手で掴み取る為に研鑽を積んでいる。
劉表は目を細めて笑っていた。
――私として、か。違ぇだろ。お前はオレと同じでイロイロと捨てちまってんだ。だからそう言える。まあ、それでこそ“覇王”に相応しいんだが。
心の中で呟いて、劉表はふいと視線を切った。
「うん、やっぱりお前は厄介だ。
……さて、こんな話も終わりにしよう。腹の探り合いってやつをしてやろう。少し聞いておきたい事があんだ」
唐突な話題変換と共に、劉表の纏う空気が変わる
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