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戦国異伝
第百八十三話 和議が終わりその五
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「まずは飯を食うのじゃ」
「畏まりました」
「そして、ですな」
「具足を着けてじゃ」
 そうしてだというのだ。
「出陣じゃ」
「まずは、ですな」
 柴田が信長に問うてきた。
「石山ですな」
「そうじゃ、既に久助は志摩に入ってな」
 見れば九鬼はこの場にはいない、しかしその彼はというのだ。
「動いておる」
「そして我等も」
「石山に向かう、あれも用意しておる」
「ではあれを使い」
「攻める、しかしじゃ」
「しかしとは」
「ここは手順を踏むとしよう」
 信長の言葉がここで変わった。
「本願寺よりも海じゃ」
「海、ですか」
「それでは」
「まずは毛利の水軍を叩く」 
 そうするというのだ。
「毛利の水軍を叩けば本願寺の戦意は相当に消失するな」
「はい、援軍が得られぬとあって」
「間違いなく」
 その通りだとだ、家臣達も口々に答える。
「兵糧も運び込まれませぬし」
「余計に」
「だからじゃ」
 それでだというのだ。
「さすれば石山を陥とすのは楽になるからのう」
「石山攻めで兵を失わずに済む」
「時間もかからないからこそ」
「だからじゃ、まずは毛利の水軍じゃ」
 彼等を破るというのだ。
「石山の前にな」
「ではそれまでは」
「囲むだけじゃ」
 石山御坊、そこをだというのだ。
「攻めるな、よいな」
「はい、では」
「まずは」
「攻めるにも順序がある」
 これは戦ではとりわけそうだ、この順序を一つ間違うと勝てる戦も勝てない。それがわからぬ者は信長は最初から家臣にはしない。
「だからじゃ、わしの命があるまで攻めるな」
「わかりました」
「それでは」
 家臣達も答える、そうしてだった。
 まずは何処と最初に戦うかの話もして朝飯を摂った、それは朝とは思えぬまでに豪勢で量も多かった。
 その馳走を前にしてだ、信長は彼等に言った。
「これを全て食ってじゃ」
「出陣して」
「勝つのですな」
「そうじゃ、これは最後の馳走ではない」
 このことも言うのだった。
「勝つ為の馳走じゃ」
「これを食って力をつけ」
「そうしてですか」
「足軽達にもたんと食わせておる」
 それだけの飯を出しているというのだ。
「馳走をな」
「当家は戦の際はいつも大飯ですが」
 ここで言ったのは林である。
「しかしですな」
「そうじゃ、普段以上にじゃ」
 大飯、それに加えてというのだ。
「あの者達にも馳走を食わしておる」
「そして帰れば」
「この馳走、また食いたいな」
「はい」
 確かな微笑みになってだ、林は信長に答えた。
「一同で」
「そうであろう、勝って生きて帰るのじゃ」
 是非にというのだ。
「その為にな」
「それでは」
 こう話してだ、そしてだった。

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