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無欠の刃
下忍編
揃える
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スケの腕の中でぐったりとしている少年の姿を下から上まで眺めると、おおよそ、ここにいるんだろうなと、大体の見当をつけて啖呵を切った。

 「私、今、すっごく、不機嫌」

 自分の額からぽたぽたと流れる赤い血を無視し、カトナは目の前の存在を睨み付ける。その形相は鬼の様であり、見た雨隠れの忍びたちを怯えさせ、同時に混乱をきたさせる。
 自分たちの技は完ぺきだったはずだ。何度も何度も同じところを歩き回らせたはずだ。木の葉の奴らは全く気が付かないまま、無様な醜態をさらし続けていた筈だ。
 なのに、なのに。

 どうして、自分たちが今不利になっているのだ!? 目の前にいる存在を、恐れているのだ!?

 慌て戸惑い、ゆえに彼らの脳は正常な判断を下せない。
 カトナがギラギラと目を光らせつつ、目の前の彼らを値踏みするように眺め、そして肩を揺らした。
 それはまるで失望した様であり、呆れたようでもあった。 

 「…この程度、ね」

 そう言った瞬間、カトナの姿が彼等の前から消える。
 瞠目し、後ろに跳ぼうとした少年の足を、大太刀がとらえ、叩き折る。運がよかったのは、彼等が作った幻術であったことだろう。もしも、本物だったときなど、考えたくもない。
 骨がボキリと折れ、崩れ落ち初めた体を蹴り飛ばし、カトナは勢いよく大太刀をぶん投げる。
 大太刀がくるくると旋回し、分身たちを薙ぎ払っていく。すぐさま、分身たちは元の姿を取り戻していくが、不機嫌なカトナにとっては、そんなことは眼中に入っておらず、迅速にかつ冷静に持っていた苦無を全て、自分ならば隠れるという場所に、投げつける。
 幻術使い。彼らは、自分たちの姿を現さない。
 それは、使う相手を自分達よりも上位の相手だと仮定しているからだ。自分達より強い相手の目の前で戦うなど、愚の骨頂。いつでも逃げれるように相手との距離を開けながら戦う。自分達より強い相手は、当然忍術も優れているとみていい。忍術での攻撃も受けないように、姿を隠し続けて戦うだろう。見つからないという自信を持って、どこかに隠れる筈だ。
 ならば、簡単な話だ。
 体術に自信が持たない人間が、上位のものを罠にかけようとするとき、一体どこに隠れるか。なんて、探すよりも簡単にわかっていた。
 苦無が敵の一人をとらえたらしく、血が上がる。
 どうやら、胸に突き刺さったらしい。ご愁傷様だと内心で手を合わせながらも、カトナの目はもう一人の存在をとらえようと動く。
 と、動く影を見つける。どうやら間一髪で苦無を避けたらしい少年は、仲間たちを置いて逃げようとしているらしい。

 「…逃がすか」

 少しばかり機嫌を悪そうにして、目の下に隈を作ったカトナは、一気にその陰に向かって駆け抜けた。
 少年が目を見張り、慌てて苦無を投げた。
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