十一幕 野ウサギが森へ帰る時
1幕
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か問い詰めようとしたジュードとミラを、彼らは社長室の外に追い出した。
ヴェルはちら、とリドウを顧みたが、エージェントたちと共に社長室を出て行った。
「ビズリーはエルをどうする気なんだ」
ルドガーは追わず、今必要な情報を得ることを選んだ。
「それはトップシークレットなんですけどねえ」
ルドガーがリドウを睨む。リドウは溜息をついた。
「エルが〈クルスニクの鍵〉だとは?」
「――知ってる」
「〈クルスニクの鍵〉ってのは、〈審判〉を超えるために精霊王オリジンの力を与えられた切り札。数代に一人しか産まれず、それゆえ、一族間で争奪の対象となってきた。社長の殺された奥さんがそれだったんだけど――ああ、副社長のじゃないほうね」
「俺のじゃない……ほう?」
「要するに、クロノスに対抗できるのは〈鍵〉が持つ“無”の力だけ――ってこと。まあ、クロノスを倒すだけ力を使えば、〈鍵〉は間違いなく時歪の因子(タイムファクター)化するだろうけどね」
「なっ!? あんた、それが分かってたのに、エルを社長と行かせたのか!!」
「俺に怒られても。副社長だって散々あの娘の力を利用してきたくせに」
ルドガーが答えに詰まった。それを見たフェイは唇を引き結んで、ルドガーとリドウの間に立った。
「ルドガーはお姉ちゃんをリヨーなんてしてない。お姉ちゃんはルドガーにお姉ちゃんぜんぶを預けて、ルドガーはお姉ちゃんのためにルドガーのホントの何倍もがんばっただけ。リヨーなんかじゃ、ないもん」
「フェイ――」
リドウの顔から笑みが消える。コワイコトを言われる前兆。それでもフェイはリドウをじっと見据えて動かなかった。
「だったらせいぜいその立派なお姉様に感謝するんだな、〈妖精〉さん。エルはキミの代わりに社長に付いて行ったんだからさ」
「――え」
「キミも〈鍵〉なんだろう? 〈鍵〉が二人いれば確実に、リスクゼロで、100%クロノスに勝てる。でも社長はエルだけを連れて行った。何故か分かるか? エルが頼んだからだよ。自分一人にしてくれって。妹は連れて行かないでくれって」
フェイはその場にぺたんと座り込んだ。足が萎えて立てない。ルドガーが慌てて肩を掴んできたが、答える余裕がない。
「やっぱ子供だよねえ。二人でやればどっちも助かったかもしれないのにさ。まあ、どっちも死ぬ率のほうが断然高いけど」
――この時、フェイの中で何かが弾けた。脳がクリアになり、思考が体中の神経に染み渡る。
実の娘なのに愛してくれない父親を怖がるとか。
自分を〈妖精〉としか見ない人たちには関心を持たないとか。
精霊は自分がキライなのだからヒドイ言葉を投げつけてもいいだとか。
エルの愛情を独占していたもう一人のミラが邪魔だとか。
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