幕間二 氷炭、相愛す
4幕
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翌日。ジュードたちは最後にセルシウスが指定した場所、ル・ロンドに程近い湾に来ていた。
ジュードとフェイの移動には、フェイが風のマナで編んだグライダーに乗って。セルシウスは横を飛んで。
青い海を見下ろすポイントで滞空し、ジュードは下を見下ろした。波打つ海があるだけだった。
「ここもハオ博士と?」
が、意外にもセルシウスは首を振る。
代わりに答えたのはフェイだった。
「ますたーとの思い出の場所ね」
「マスターって……まさか、ジランド?」
――旧アルクノアの首領、ジランドール・ユル・スヴェント。
リーゼ・マクシア人のマナを搾取するという非道を行いながらも、その奥に深く熱い愛国心を懐いていた男。
『私はこの海域でサルベージされた――とマスターが言っていた』
「……そうして君は源霊匣の実験に利用されて、復活したんだね」
セルシウスは兵器として一度壊れ、ジランドも未完成の装置で彼女を使役した反動で死んだ。とても、やりきれない戦いとして、ジュードの記憶に残っている。
『正直言って、マスターは今でも好きになれない。故国のためとはいえ、マスターが私にしてきた仕打ちを許すほど、私は誇りを失っていない』
「だよ、ね」
『だが、そんなマスターでも、〈私〉を現世に蘇らせてくれた人だ。普通の人間ならば、青い盛りに異界に流されれば狂うか絶望するか。だのに彼は、強靭な意志で組織を束ね、ただ国に帰るだけでなく、国を救う術をも模索し続けた。今でも許せないし腹が立つが、彼の情熱には、敵わない、と認めている自分がいる』
セルシウスはジランドを見てきたのだ。ジランドがいつから源霊匣開発に着手したか知らないが、化石の彼女を彼が手にした時からずっと。ジュードたちが知らない、ジランドの苦悩と失敗と挫折を。彼に造られゆくセルシウスだけが見つめていた。
冷静。冷酷。冷徹――そんな言葉が似合っていた男と、この氷の大精霊は似ていたのかもしれない。
(今研究してる源霊匣は、ジランドとバランさんの確立した基礎構造あってこそだ。ヴィクトルの分史じゃ僕が開発の立役者みたいに伝わってたけど、本当にあそこで名を遺すのは僕だけでいいんだろうか?)
人と精霊の共存さえ達成できるならばそれでいい。それがミラとの約束で、ミラがくれた猶予の正しい使い方だ。ジュードは脇目も振らずあの未来を目指せばいい――そう、思っていたのに。
(源霊匣そのものの開発にさえ足踏みしてるのに、その先を考える余裕なんてないって分かってる。でも僕は、どうせ名が残るなら、バランさんや……ジランドの名も残したい。確かにジランドはセルシウスを使役したけれど、彼も、広い意味では「精霊と共に歩もうと
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