第七章
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第七章
そしてだ。話をさらに続けるのだった。
「その時。気付いたら病院の病室だった。その枕元には二人がいた」
「御二人がなのですね」
「今にも泣きそうな顔でだ。そいつが目を開いたのを見て笑顔になった」
「それってまさか」
「そいつは自分を愛してくれる人にも心配してくれていることにも気付かなかった。そのことを今でも悔やんでいる」
「心にですか」
「傷だな」
秀典は上を向いたままだ。そのうえで言うのだった。
「これも」
「そうですね、確かに」
「このことは誰にも言えない。誰にもな」
ここまで話した。そして奈々に顔を向けてだ。
「誰にでもそういうものはある」
「けれどその人は」
「今は何とか前向きにやっていけているかも知れない」
言葉は一応、とした感じだった。だが言ったことは確かだった。
「傷を受けてもだ」
「傷を受けても」
「じゃあ私は」
「難しいし言えない。隠していてもいい」
それはいいというのだ。傷をわかっているからこその言葉だった。
「だが」
「だが、ですね」
「誰でもそうだったりする。そして傷について何か言われたら」
「言われたら」
「俺でいいか」
奈々に真剣に顔を向けた。そのうえでの言葉だった。
「その時は任せてくれ。何とかする」
「それはどうしてですか?」
奈々には今の秀典の言葉の意味がわからなかった。それで目をしばたかせて問うたのだ。
「どうして。任せてくれと」
「見たからだ」
だからだというのだ。
「傷を見たからだ。見ればそれを何とかすることが信念だ」
こう話してそのうえで見ていた。奈々の目をだ。彼女の目を見ながらの言葉だ。秀典のその鋭い筈の光は今は優しいものだった。
「俺のだ」
「その言葉は」
「信じても信じなくてもいい」
それもいいのだという。
「ただ」
「ただ?」
「俺はそうする。それだけだ」
こう言ってだった。丁度雨が止んだのでその場を去った。後に残った奈々はだ。俯いて考える顔になっていた。しかしであった。次の日にであった。
秀典達がクラスで皆で話をしているとだった。そこにだ。
奈々が来た。おどおどとしている。しかしそれでも何とか言った。
「あの」
「あれ、柊さん」
「どうしたの?」
「何のお話をされてるんですか?」
こう皆に問うのだった。
「よかったら。お聞かせさせてもらえませんか」
「柊さんが来るなんて」
「嘘みたい」
「いいんじゃないか」
だがここでだ。秀典が言ってみせたのだ。
「誰でも来ればいい。そして皆で楽しくやればいい」
「そうだよな、確かにな」
「メンバーは多い方が楽しいし」
皆も秀典が言うとだった。すぐに頷いた。
そうして奈々に顔を向けてだ。あらためて言うのだった
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