第4話 夢ノヨウ恋ノヨウ
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なら、法が施行される前だ。それは昨日話しただろう」
「はい」
「連中が道東だけにいるとは限らない。他の都市のグループと合流しようとしているかもしれないし、最悪の場合特殊警備員の中に紛れこんで、情報を横流ししている可能性もないとは言い切れないわけだ」
「それで、俺が疑われてるんですか?」
「疑われるようなことをするなと言ってるんだ。もう帰れ」
クグチは今更動悸が激しくなるのを感じながら建物を出た。
自転車を引いて歩き、近くの公園で気が落ち着くのを待った後、ある場所に向かって自転車を漕ぎ始めた。誰かが自分を何かに巻きこもうとしていることは確実だ。それについて無関心ではいられないし、単純に、実の父親について興味があった。ハツセリから得られる情報だけをあてにするつもりはなかった。
クグチは、目的地が迫るにつれ悲壮な心持ちになってきた。幼少期の記憶はほとんどない……いずれ何か嫌な記憶を思い出すことになりそうな、予感に満ちていた。
大学図書館は一般に公開されていることが多い。期待した通り、道東工科大もそうであった。
たっぷり半日後、クグチは寮の自室に戻っていた。机に本を積み、更に、帰途に早速倉庫から盗み出してきた外付けバッテリーの充電を始める。
椅子に座って腕組みし、本の山を睨んだ。クグチは読書に親しみがない。しばらく本の背表紙に視線を注ぐ。著者名はどれも同じだ。大学図書館の校誌で見つけた名。
明日宮エイジの同期生。
そしてハツセリが言う『もう一人』、卒業後に、電磁気学研究所に入った男だ。
名は伊藤ケイタ。
クグチは真剣な表情で迷った後、一番簡単そうな本のタイトルに手を伸ばす。
『あなたでもわかる電磁気学研究誌』
実際には電磁気学の本でも研究誌でもなく、Q国での従軍の日々を回想したエッセイだ。同じ著者の他の本も借りてみたものの、専門性が高くて初めに手を出すにはハードルが高い。この先にだって読むことはない気がする。クグチは自分の読書嫌いを呪ったが、今更仕方がない。
一番簡単そうな本の目次を見て、関係がありそうな場所だけ読もうと決めた。それが一番、挫折しにくそうだ。
『一章 電磁気学のなりたち』
違う。
『二章 僕が電磁気学を選んだワケ』
これも違う。
『三章 道東工科大の日々』
これか?
―4―
〈こうして、現在ではQ国と呼ばれる現地での調査メンバーに私が選ばれることとなった〉
クグチはマーケット前でタクシーを拾う。
「中央十一区へ」
〈同じチームに配属されたのは、先述の明日宮君、強羅木君、向坂君、そして紅一点の桑島君であった。私たちはみな大学の同期生であったので和気藹々とした雰囲気でQ国入りを果たしたが、現地での活動内容がほぼ略奪に等しい、現地研究所の研究データの横取りで
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