第4話 夢ノヨウ恋ノヨウ
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さん、また将棋?」
星薗と年代の近い、沢下と石塚という中年二人が応じた。
「休みの日にまで、熱心だねえ」
マキメを見ると、困ったような、渋い顔つきをしている。クグチの視線に気づくと声を潜めた。
「他に行き場がないんだよ、あの人は。岸本さんも匙投げてるし。でも君はああいう歳のとり方しちゃ駄目だぞ」
クグチは星薗の姿に重なって、十分にあり得る自分の未来が見え、ぞっとした。
「いいじゃねえかよう、どうせ他にすることもねえんだしよう」
彼は将棋盤を持って、二人の同僚がいるローテーブルに歩いていった。
「出動なんか滅多にねえ。訓練もたまにあるだけ。一日中パチパチ将棋打って時間が経つの待ってりゃおまんま食える。えっ? いい商売じゃねえか」
「星薗さん」
岸本が睨むのを感じてか、石塚が小声でたしなめた。
「えっ? 何だ? 何か間違ったこと言ったか、俺?」
「一日中将棋やってりゃいいってのは言いすぎでしょう、俺たちにだってちゃんと仕事はあるわけだし……」
「どうも、何回説明しても現状を理解できない奴がいるようだな」
と、岸本。
「廃電磁体を故意に都市に招じ入れようとする連中が存在することは、前回の出動で明らかになったはずだ。今後俺たちの出動が増えることはあっても減ることはない。出動時に邪魔になるような奴には出て行ってもらうしかない。そこんとこわかってんだろうな」
クグチはこれ以上場が険悪になる前に、さっさと退散することに決めた。ドアを開けると、ちょうど廊下側からも誰かがドアを開けようとしていたところで、ばったり至近距離で顔を突き合わせる形となり、思わず飛びのいた。
「ああ、ちょっといいですかね」
夜勤の警備員だ。しかも見覚えがある。昨夜裏口で出入りを見張っていた警備員だ。岸本も星薗も黙った。
「何ですか」
岸本がぶっきらぼうに尋ねた。
「や、念のためお伺いして回ってるんですが、この中に昨夜、二階の倉庫に行った人はいませんかね」
立ちくらみが起き、顔が熱くなった。全員黙っている。目が泳ぎそうになるのを我慢し、動揺を堪えるために、そっと深呼吸した。
「いないんじゃないですかね」やる気なさそうに岸本が答えた。「何かあったんですか?」
「いや、昨夜倉庫作業中に作業員が倉庫の鍵を紛失しまして……まあ、入っているのもガラクタばかりなんですがね、まあでも、施設内の鍵がなくなるなんてのも剣呑な話ですからね」
警備員は室内の全員の顔を窺い、最後にクグチに目を止めた。
「ああ、あなた、昨夜ここに来たとき、何か不審な人は見ませんでしたかね」
全員の視線が、一斉に背中に突き刺さるのを感じた。
もっと早く部屋を出ていればよかった。クグチは後悔したが、今更どうにもならない。
「昨夜? 昨夜ここに来たのか? 何しに?」
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