第4話 夢ノヨウ恋ノヨウ
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ない。中心人物について私たちは何も掴んでいない。噂話なら二年ほど前から……でも、その頃はただの都市伝説にすぎなかった」
倉庫に行き当たったのは幸運である。
西棟の暗い廊下に、扉が開け放たれている部屋があった。
「あれは?」
「倉庫だよ。来月から使ってなかった部屋を使うことになったから、荷物を移動したり整理してるの。仕事の邪魔になるから夜間の作業だけどね」
何気なく中を覗いた。
作業員たちがしゃべりながら出てきて戸を閉め、鍵穴に挿しっぱなしだった鍵を回した。
夜、マーケットの買い物袋を自転車の前かごに放りこみ、クグチは出かけた。マーケットでの買い物が割引される専用の買い物袋だ。しかしクグチはマーケットを素通りした。繁華街を抜け、住宅地を抜け、町の暗い方、低い方へ、突き進んだ。
問題のビルに着き、門の内側に自転車を隠した。買物袋を掴んで、開け放たれた玄関扉から内部に入りこみ、中庭を囲む廊下を庭園方面に進む。
廃庭園に明かりがともっていた。オレンジ色の光を放つボール型のライトが、ハツセリと、アクリルのハープのオブジェを照らしていた。
遠く揺らめく月虹を背負って、ハツセリが立ち上がった。クグチは額の汗をぬぐい、眼鏡を外した。月虹は消えた。
「早かったのね」
ハツセリは立つ。彼女が座っていた椅子にマーケットの買い物袋を置いた。
「保存食は持ってきてくれた?」
「幽霊のくせに腹は減るのか?」
「私はこの体に憑依しているもの。とりあえずこの体は維持しなきゃ」
買い物袋から助六寿司のパックを出して渡した。
「あら、海鮮堂だわ。懐かしい。学生の頃よくここでお弁当買って研究室で食べてた」
「あんた何歳だよ」
「私こう見えても、あなたが生まれた年に今のあなたと同じくらいの歳だったのよ」
「あんた、俺の親父を知ってるのか?」
不信感と苛立ちを堪えてクグチは少女に尋ねた。ハツセリが寿司を食べながら剣呑な目を向けた。それから目を寿司に戻し、黙って食べた。
「言えよ。俺はあんたのことを岸本たちに黙っておいたんだ」
クグチは続けた。
「あんたから聞きたい話があるからだ。それくらいわかるだろ」
「わかってるわよ。物食べてる間くらいちょっと黙ってて」
箸でつかんだ最後の一切れを押しこむように口に入れ、のみこんだ後、ハツセリは少し苛立った様子で言った。
「明日宮エイジは良い男だったわ。あなた似てないわね。お茶ちょうだい」
投げつけてやろうかと思ったが、やめた。
「ありがとう。あなたが小さい時、私は明日宮君と一緒にQ国にいた」
「あんた、どう見ても俺より年下じゃないか」
「最後まで聞いて」
ハツセリが睨む。
「ところでQ国って変な呼び方よね。当時はちゃんと国名で呼んでたのよ。相手国のこと。あなたQ国
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