第4話 夢ノヨウ恋ノヨウ
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庫にあるから、みんな一本ずつもらっていくように。以上」
パーテーションで区切られた冷蔵庫。そこで、クグチは自分宛てのメッセージを見つける。
南紀製のロットの眼鏡だけが、お茶の上に浮く緑の文字を見ることができた。
〈暫くは彼女と会わないように〉
ハツセリのもとに行かないまま、一日経つ。
二日目。
『市民の皆様にお知らせします。四日後に迫る〈みらい〉打ち上げに備え、第十一防衛海域は海上封鎖されております。万一の事態に備え、居住区からの出入りは控えていただきますようお願い申し上げます』
三日目。
「この間は疑うようなことを言って悪かったよ。でもまあ、こんなご時世だしさ。私は君のことを仲間だと思ってるよ」
「ありがとうございます」
四日目。向坂を見つけるも、人が多くて接触できない。
五日目。人が少ない場所を見つけるも、向坂がいない。
六日目。もう待てない。
―5―
〈あさひ〉打ち上げまで半日を切り、そのまた半分の、また半分を切った。
お祭りの夜である。何事もなく退勤したクグチは、自転車を引っ張ってまっすぐ廃ビルに向かった。今夜なら、帰りが遅くなったところで誰にも怪しまれない。
「パソコンは持って来れなかった」
暗い庭園で、クグチは倉庫での一件を、向坂に助けられた事も含めて説明した。ハツセリはそれについてクグチを責めなかったが、落胆した様子は伝わってきた。
「そう。向坂君とは話はできた?」
「それもまだなんだ。あの人は……何ていうか、こそこそしている。どうしても二人きりで話したいようだが、機会がなかなかない」
「こそこそしてる?」
ハツセリが眉を寄せた。何か彼女にとって失礼な発言だっただろうかと思ったが、そうではなく、単に怪訝に思ったのだと、続く言葉でわかった。
「彼がそうする必要はないはずなのに。あなたのお父さんと彼の関係が周囲に明らかになることが、そう不都合だとも思えないわ」
「しばらくここに来なかったのも向坂さんの進言があったからだ。直接言われたわけじゃなくて、班への差し入れのお茶に、俺だけにわかるようにメッセージがタグ付けされていた」
「私の所に来ないようにって?」
クグチは頷く。ハツセリは、一週間ここで誰にも会わずに過ごしたようにはとても見えないほど清潔だし、食事もとっているようで、健康そうだ。
「向坂さんは、何かを秘密裏に進めたがっている。俺にはそう見える」
ハツセリは黙っている。じっと何かを考えている。庭園よりずっと遠くで、偽りの花火が上がる。その光がハツセリの細い頬を青く染めた。その黒々とした瞳孔の中で光がチラチラ揺れ、唇がわなないている様を明らかにした。ハツセリは、その唇に指をあてた。
「……あのトロフィーはね、黙っていたけど、向坂君が預かっていたものよ」
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