第4話 夢ノヨウ恋ノヨウ
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な中年だ。スーツ姿で中肉中背。彼が寮に入る時、横顔が見えた。彼は食堂に入り、列に並んで朝食を取り、十二班のテーブルに座った。十三班のテーブルの目の前だ。
クグチもパンと、サラダと、スープを受け取った。
向坂と話をしたいが、既に向坂の向かいに別の人間が座って、何か話をしている。クグチが話しかけるような隙はない。
向坂の顔が見える場所に席を取ったクグチは、何気なく食堂の入り口を見て、向坂の気を引く方法を得た。
「島さん!」
入り口でトレイを手に取った島が、いい具合に大きな声で挨拶を返してくれた。
「あっ、明日宮君! おはよう」
向坂に視線を戻した。彼がすかさず自分から目をそらすのがわかった。
「早いんだね」
「島さんこそ」
「いや、俺食べるの遅いから、いつも早めに来るんだ。昨日はごめんね。シフト表の件」
「いえ」
「寝れてる? 何か疲れてるっぽいけど」
クグチは朝食を口に運びながら首を横に振った。
「道東には慣れた? 遠くから来て、いろいろ不安なこともあると思うけど」
「俺、子供の頃道東に住んでたんですよ。父親もここの出身なんです」
向坂を見る。
彼は彼の話し相手から決して目をそらさず、クグチを見ない。
「そっか、じゃあ初めての土地ってわけじゃないんだ」
「父親が道東工科大の出身なんです」
「へえ、お父さん頭いいんだ。すごいな」
「その同期生で伊藤ケイタって人がいるんですけど」
向坂の眠そうなまぶたが引き攣るのを見た。クグチは向坂に視線の圧力をかけるのを、やめなかった。
「わりと有名な小説家みたいで、父親の知り合いだったんです」
「そうなんだ。その小説家の人とも知り合いなの?」
「いえ、でもその共通の友人が道東にいて……」
「じゃあ、頼りになる人がいるんだね。よかった。一人で心細いんじゃないかって思ってたんだ」
向坂が立ち上がり、やけに大きな声で言った。
「ちょっと、裏口で外の空気吸ってくるよ」
クグチは朝食を急いで片付けると、島との会話を適当に切り上げ、寮の裏口に急いだ。
誰もいない。
それは、向坂ゴエイと二人きりで接触する、最初でそして最大のチャンスだった。
桜の木の陰からスーツ姿の向坂ゴエイが姿を見せた。彼はクグチに向かって歩いてくる。
クグチも歩み寄ろうとした。
「明日宮君!」
しかし、クグチを呼んだのは女の声だった。
「そんな所で何してるの」
マキメだった。ゴエイはどこかに姿を隠してしまった。
悔しさを隠して出勤するしかなかった。
朝礼。不審者がうろついていることが、岸本の口から告げられる。倉庫の件については、あえてだろうが、話は出なかった。そして今日は訓練。
「本来のこの部署の室長である向坂さんからお茶の差し入れをもらった。後ろの冷蔵
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