第4話 夢ノヨウ恋ノヨウ
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開けた。
その瞬間、警報が鳴り響いた。
最初、何故警報が鳴ったか分からず、硬直し立ち竦んだ。やがて下の廊下から足音が迫り、それが階段を駆け上がってくると、クグチは慌てて鍵を抜き、全力で廊下の端へ駆けた。
男子トイレに体を滑りこませるとほぼ同時に、足音がこの廊下の、反対の端に達した。
「倉庫が開いてる」
と、警備員たちの声が、警報にかき消されながら聞こえてきた。クグチは一番奥の個室に身を潜め、彼らが去るのを待った。
警報が止んだ。早朝の建屋内は、耳が痛いほど静かになる。
足音が散り、その内の一つがこちらに向かってきた。階段を下りていってくれるのを静かに願ったが、足音は少し考えてから、トイレに入ってきた。
一番手前の個室のドアが、ギィッ、と軋んで開かれ、閉じた。
すぐに二番目の個室が、同じように調べられる。
終わりだ。クグチは震えを堪えてドアに寄り掛かった。
どうやって言い訳しよう?
あるいはばっくれようか?
個室に鍵をして、いかにも用を足していた風に?
三番目のドアが開く。
まだ決めあぐねている。出勤してくるような時間でもないのに、こんな階のトイレで用を足していたことを、どう説明すればいい?
四番目のドアが開く。
駄目だ。何も思いつかない。
五番目のドアが開く。
立て籠もるか? 立て籠もったところでどうする?
ついに警備員の気配が個室の薄いドアの向こうに立った時、
「何かあったのかい」
別の男の声が入ってきた。
「向坂さん」
警備員の声は、まだ若い男の声だった。
向坂? あの向坂ゴエイなのか? 恐怖と緊張で呻き声が漏れそうになるのを堪えながら、ことの展開を待った。
「誰かが倉庫に入ったみたいなんです。それで、警報が」
「ああ、なるほど」
おっとりした調子の中年男の声が続く。
「僕はずっと倉庫の隣の部屋にいたけど、さっき、誰かが凄い勢いで階段を駆け下りていったよ。後ろ姿しか見えなかったから、誰だかよくわからなかったが……」
「本当ですか!」
警備員の気配が、さっと個室の前から離れた。座りこみそうになるのを堪え、クグチは立ち続けた。足音を立てて、向坂と呼ばれた男が男子トイレの前から立ち去る。
しばらく間を開けて、そっと個室のドアを開いた。
中年男の背中が階段を下り、踊り場を曲がって行くのが見えた。この男が向坂だろう。その後を、足音を殺して歩く。男は一階に下り、そのまま建屋を出て行った。
ぶらぶらと散歩するような歩調で、ドーム越しの朝の光の中を寮へ歩いている。
倉庫の隣の部屋にいた向坂には、警報が鳴った直後、廊下を走って逃げるクグチの姿が見えたのだろう。何故、俺を助けたんだ? クグチは心の中で問う。
後ろ姿を観察する限り、どこにでもいそう
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