暁 〜小説投稿サイト〜
Magic flare(マジック・フレア)
第4話 夢ノヨウ恋ノヨウ
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あることがわかってくると、私たちが額を寄せ合って深刻に話し合う回数は次第に増えていった。〉
「ここで降ります」
 クグチは繁華街をうろつく。足もとの銀河、宙を泳ぐ星の魚の夜である。
 紅一点というのだから、桑島という人物がハツセリの……ハツセリを名乗る幽霊の……正体だろう。
 桑島メイミ。明日宮エイジの、強羅木ハジメの、そしてまだ見ぬ向坂ゴエイの、同期生。
 クグチは寮のホームパネルから接続できる、市民データベースから得た情報を反芻する。
 伊藤ケイタ。道東工科大学卒。道南大学理学部客員教授。元SF小説家。理学エッセイスト。著書多数。
 クグチはまたもタクシーを止める。透きとおる銀河を渡る白き方舟のタクシーである。
「北三区の入り口へ。公園手前までで結構です」
 伊藤ケイタ。桑島メイミ。新しく得た名前が頭の中で渦を巻く。
 伊藤ケイタ。国防技術研究所を僅か一年で依願退職。その後大学院に入り直し、同時に文筆業の世界に足を踏み入れる。道南大学に客員教授として招かれたものの、やはり僅かに勤務した後自主退職。その後道東居住区に居住権を得るが、現在は消息不明。
「やっぱり、ここでいいです。降ろしてください」
 桑島メイミ。休暇中、道東大空襲に遭い死亡。
「東二十六区へお願いします」
 今度のタクシーは魚の気球。
 馬鹿げてる。
 馬鹿げてる。
 馬鹿げてる。

「それで、バッテリーは持ってきたの?」
 この女が桑島メイミなのか? 廃ビルの一室に立つ少女のハツセリを前に、クグチは思いを巡らす。あるいは桑島メイミの守護天使か。守護天使に洗脳された少女か。
 わからない。この存在を形容する言葉は存在しない。
 そのハツセリは、機嫌がいい。目には踊るウサギのレンズがはめられて、決められた動きを瞳の中で何度も何度も繰り返している。
「随分、協力的だな」
「当たり前でしょう。明日宮君が遺したものよ、興味がないわけないじゃない」
 バッテリーを挿す。古いパソコンに充電中を示すライトがつく。しかし、電源はつかなかった。
「古いもの。仕方ないわね。本体を持ってきて」
「大きすぎる。流石に盗み出せない」
「じゃあ、基盤を持ってきて組み立てる?」
 ハツセリがかわいらしく肩を竦める。
「わかった」
 クグチは約束せざるをせない。
「一番小さいやつを持ってくる」
「盗み出すのね」
「当たり前だ。今時そんな旧式のマシン、売ってるわけないだろう」

 ホテルで夜明けを待つ。クグチはベッドに横たわり、目を閉じるが一睡もできない。寮の警報が解除される時間を見計らい、寮に帰り、制服に着替えた。
 自転車置き場を通らずに、西棟へ向かう。
 正面から入る。中庭で警備員たちが、ラジオ体操をやっている。クグチは倉庫に向かい、鍵を回し、
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