暁 〜小説投稿サイト〜
横浜事変-the mixing black&white-
宮条麻生は少年にこの世での根本的な生き方を説いた
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た。
『確かに我々の力なら、敵の位置を絞れるだろう。しかし、危険すぎるのも事実だ。ロシアの殺し屋共の行動も気になる。奴らが裂綿隊の他に我々も敵と見なしているなら、漁夫の利を狙われて終わりだ』
『だからこそです。何も正面衝突だけが敵を葬る手段というわけではないでしょう』
大河内の言葉はまさに的を射ていた。あのときのケンジには理解出来なかったのだが、他の殺し屋メンバーには通じたらしい。法城が大河内の言葉を補足する形で呟いた。
『……長距離射撃による暗殺、
攪乱
(
かくらん
)
。そこからの戦闘』
そこまで回想にふけったところで、ケンジは鍋に出来上がった味噌汁の味見をし、納得のいく味に仕上がっている事で口角を緩めた。冷蔵庫にあった昨日の夕食の残り物と思われるチンジャオロースと白飯を用意して、一人昼食にありつく。護衛作戦開始前に菓子パンとコーヒー牛乳を含んだ以来なので、いつも以上に食が進んだ。くたびれた身体に栄養が直に入り込んでいる気がして、なんだか安心する。
――腹が減っては軍は出来ぬって言うけど、ホントその通りだなあ。
そんな事を考えながら、何となくテレビの電源を点けるケンジ。最近のトピックや事件などを評論家の意見を交えて議論し合っているテレビの向こう側の人達にケンジは呟いた。
――芸能人が逮捕されたり、会社の横領が問題になるより、現実はもっとどす黒いよ。
それは表側の人間達は決して知りえない話。自ら首を突っ込まなければ交わる事すらない、遠い世界の事情。
少年はテレビを見ながらご飯を食べるという有り触れた日常の額縁で、自分だけが絵の中から浮いているのを実感した。
街の裏側に足を踏み入れたからなのか、自分の手で人の命を抹消したからなのか、果ては生まれたその瞬間からそうだったのか――
「きっと全部だね」
普通の人間とは違う歯車が内に混在する事を自覚した少年は、しかしそれでも、額縁の中に居続けた。
自分が復讐を遂げたあと、裏世界には留まらず、安寧の地へと帰ってくるきっかけとするために。
しかし今はまだ終わらない。終われない。
『殺し屋統括情報局は、山下埠頭に集う裂綿隊の襲撃作戦を実行する』
阿久津の声がケンジの心に木霊する。
――そうだ、今は終われない。八幡さんと狩屋さん、そして彼女の……。
復讐に燃えるケンジの目は、どこまでも真っ直ぐだった。だが、彼を知らない人間から見たら、その姿はこう映った事だろう。
あの少年は、何故あんなに歪んでいるんだろう、と。
暁ケンジは誰よりも他人思いで優しく、初志貫徹という言葉が具現化したように芯の太い人間だ。それが時に頑固となるのも、彼の持つ一面であり、否定は出来ない。
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