第百八十二話 山中鹿之介その九
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「わしを、織田家を倒そうとしておられるのじゃ」
「では最早」
「幕府はな」
遂にだ、信長はこの言葉を出した。
「天下の災厄の元やもな」
「そうなっていますか」
「そう思えてきた」
「では」
「その時はじゃ」
信長は弟達に述べた。
「倒幕か」
「幕府をですか」
「倒すと」
「そうするしかあるまい」
こう言うのだった。
「最早な」
「しかしそれは」
信行はあえてだ、兄に言った。
「あまりにも」
「うむ、わしも同じ考えじゃ」
「我等は武門です、ですから」
「幕府を倒すことはな」
「憚れますが」
「そうじゃな、しかし」
ここでだ、信長は弟達特に信行に述べた。
「これは帝からも言われておるのじゃ」
「帝からもですか」
「密かにじゃがな」
「何と言われているのでしょうか」
「天下を安んじろと」
このことは確かに帝から言われている、信長が天下人であるとみなしていてそのうえで帝も仰ったのである。
「わしにな」
「では」
「幕府が天下を乱すのならな」
その時は、というのだ。
「わしもそうするしかあるまい」
「ですか」
「そうなりますか」
「そういうことじゃ、もっともな」
「幕府を倒すその時も」
「帝が仰らねば」
「出来ぬ」
こう弟達に答えた信長だった。
「到底な」
「では帝からの御言葉があれば」
信行は確かな声でまた兄に問うた。
「その時は」
「そうなる、それで勘十郎」
「はい」
「若しも都で乱があれば」
どうするかとだ、信長は信行に告げた。
「朝廷と民を守れ」
「その二万の兵で」
「まずはそれをせよ」
戦よりもというのだ。
「よいな」
「畏まりました」
「民も朝廷も戦に巻き込むでない」
このことは絶対にというのだ、信長はあくまで民のことを考えていた。それが言葉となってはっきり出ていた。
「そのこと、果たす様にな」
「わかっております」
「けりはわしが付ける」
信長自身が、というのだ。
「その時までもってくれ」
「そのことも」
「うむ、そういうことでな」
こう信行に話してだ、そしてだった。
信広にもだ、こう言ったのだった。
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