第34話 頑固爺とドラ息子
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ちらの世界での俺の人生の二倍半、軍歴だけなら二倍弱。そんな彼から見れば、俺など苦労知らずの御曹司だ。
「本を一冊書いたとはいえ、わしはそれほど有名人だと、ついぞ聞いた事はないがな」
「査閲部に在籍した折、マクニール少佐と知己を得ました。少佐は小官に砲術の話をされる際には、必ずと言っていいほど閣下のお名前を出されました。“同盟軍でも最高の砲手の一人だ”と」
「マクニール……あぁ、“酔いどれマクニール”か……ほう」
視線の質が不愉快から疑念まで変化した。そして俺の経歴書を未決の箱に放り込むと、手を組んで皺の寄った顎を乗せて俺を見上げる。
「彼の掲げる砲術理論……理論というものではないな、『コツ』を言ってみたまえ」
「おおまかには『相手より先に撃つより、早く正確に撃ち返せ』と『むやみやたらと射点・射線を変化させるな』の二点です」
マクニール少佐が退役するまで、査閲部で俺と膝を突き合わせて話した事は基本的にその二点に収束される。他にもいろいろな『コツ』は教わったが、それらのほとんどが引き金を緩くするといった分野であって、ビュコックの爺さんが聞きたい事はそういうことではないだろう。本当に俺が自分の知るマクニール少佐と知己を得ているのか、疑っていたということか。
そういうとビュコックの爺様は未決の箱から決済の箱に俺の経歴書を移す。そして俺に顔を寄せるように手招きした。俺がそれに従って前進し爺様に顔を寄せると、爺様は老人とは思えぬ動きで席から立ち上がり、固い右拳が俺の頭めがけて振り下ろす。誰がビュコック提督のそんな動きを予想する!?
「イタァァァ!!」
「この馬鹿息子が!!」
頭蓋骨が割れたかと思うくらいの痛さで思わず床に蹲る俺を、爺様は容赦なく叱咤する。
「シトレ中将はフェザーンに配属させた張本人を探しに情報部まで怒鳴り込んだというのに!! それだけ期待されているにも関わらず、軽率な行動でこんな辺境に流されおって、反省せい、反省!!」
最初から俺の事など全て知った上での演技だったわけで、俺はものの見事に爺様に騙されたわけだ。そしておそらくこの人事もクソ親父(シトレ中将)がまたも干渉した結果だろう。本当は感謝したい気持ちで一杯だが、この痛撃はそのお叱り分ということなのか。左手を頭に当て、涙ながらに俺がかろうじて立ちあがると、爺様はドンと先ほど俺の頭に振り下ろした拳を執務机に叩きつけた。
「あのマクニールが一緒に酒を飲んだほどの男なら見どころは十分ある。まず貴官にはケリムで見せた実力をこの辺境で見せてもらうぞ。後から来る連中を交えてな」
そう言うと爺様はどっかりと音を立てて席に座りなおす。
「さぁ、ジュニア。マーロヴィアの大掃除じゃ!!」
爺様の年齢不相応な覇気の溢れる声に、俺の背筋は自然にピンと伸びるのだった。
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