魔石の時代
第四章
覚悟と選択の行方5
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だった。しかし、それは自分が誘導したという部分もある。慣れない事とは言え、覚悟は決まっていた。問題はむしろ母親――つまり桃子だった。彼女が自分を連れて帰った理由が分からない。子守が欲しかっただけ。夫の言葉に追従しただけ。仮説でよければいくつか立てる事が出来た。だが、それなら何故――
「ねぇ、光。昔のあなたの事を教えてくれない?」
何故こんな事を言い出すのか。そもそも自分の過去などとっくに話してある。人殺しで、異能者で、不死の怪物だ。そんな事は、この家に来る前に話してある。
「私がパティシエになったのは、もちろんお菓子作りが好きだったという事もあるけれど、美味しいって言って笑ってくれる人の顔を見るのが好きだったからなの。士郎さんと一緒になった切っ掛けも、美味しそうにシュークリームを食べてくれた事なのよ」
困惑していると、不意に彼女は言った。それはのろけ話かとも思ったが、どうやらそうではないようだった。
「ずっと笑って、幸せに暮らすこと。それが士郎さんとかわした約束なの」
そう言って、彼女はいつもと同じように笑って見せた。ただし、今浮かべているその表情が笑みだとは自分には思えなかったが。どちらかと言えば、泣き顔に見えた。
「私が今もその約束を守っていられるのは、あなたが士郎さんを助けてくれたからだと思うのよ」
だから、そのお礼ではないけれど――と彼女は言った。
「あなたにも。ずっと笑って、幸せに暮らして欲しいのよ」
きっと私の我儘なんでしょうね――と、笑みにも見える表情を浮かべた。
それでも、あなたが今まで何を想って生きてきたのか。何を願って生きてきたのか。私が想像もできないような過酷な生き方をしてでもやらなければならないと思ったのは何だったのか、それを教えて欲しい。そして、少しでも手伝わせて欲しい。彼女はそんな事を言った。
誰かが犠牲となるような世界を変えたい。それが、自分が受け継いだ望みだった。恩師達を生贄としたあの日から、ずっとその為に生きてきた。神に祈るのではなく、誰かの生き様に想いを馳せ、その願いを繋いでいく。そんな世界を作ろうとした。そのために、戦い続けてきた。矛盾すると分かっていてなお、多くの犠牲を積み上げてきた。そして、おそらく――あの『世界』はついに、自分の手から離れたのだ。少なくとも自分が生まれ育ち生きてきたあの世界に、もう不死の怪物は必要ない。
それでも、再びこの世界のどこかに舞い戻ってきたのは、それは――大切な仲間との約束があるからだった。その約束を果たさなければならない。
誰かが犠牲となるような世界を変えたい。それはもう自分の意志でもあるのだから。
「それなら、なおさらよ」
と、桃子は言った。
「誰かが犠牲となるような世界を変えたいのなら、あなただって犠牲になってはいけないの。だから
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