第2話 泣ク看守
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くる。褒めあって、なれ合って、世辞を言いあって――あら、本心よ。私心にもないことは言ってないわ――わかった。じゃあ一のことを十にして言っているのだな。そうすると幸福指数のポイントが貯まる。守護天使にも同じことをさせる。すると更に貯まる。便利な幸せが買物券のように貯まっていく。
窓の外を凄まじい勢いで広告が流れ去る。『指数Aランク以上の方必見! 厳選土地物件はコチラ!!』『Cランクから就労可能・寮、社保あり』『締切迫る! Sランク市民のみ宿泊可能のVIPスイートに抽選で三十組様ご招待!』
「何をそんなに苛立つことがあるの」
さっき教室にいた少女だ。隣の客席に座っている。
「別に苛立ってなんかない」
「苛立ってるわよ。前の席のおばさんたちのこと、さっきから気にしてるじゃない」
「別に」
「どうして別に、なんて言うの。そんなにあからさまなくせに。どうせ言ってもわからないとでも思ってるの? そんなに高尚なことを考えてるわけでもないんでしょう?」
隣の少女を見つめる。見た顔だと思ったら、居住区で会ったことがある。その時は、自分を幽霊だと語った。少女は重ねて言った。
「あなたには彼女たちの会話を受け入れられない。もし彼女たちがあなたの何かを褒めでもしたら、もう我慢できないでしょうね。でもそれはあなたが彼女たちの感情に共感できないからじゃない。自分に向けられるお世辞に共感できないからよ」
「意味がわからない」
「普通の人は、お世辞も褒め言葉もとりあえず受け取っておくものよ。あなたはそれができない。共感できないから。自分に対する良い意味の言葉がほんの少しも嬉しくないのなら、あなたは自分を愛していないのよ。あなたは愛にまつわる能力が欠けてるの」
「そんなことはどうでもいいだろう。頼むから黙ってくれ。寝たいんだ」
「駄目よ。夢で寝たら死ぬわ」
そんな迷信は聞いたこともない。そう思って少女を見たら、彼女は指を顎にかけ、顔を取り外した。隠れていた宇宙が少女の髪の毛の下に現われた。
乗客が、座席が、小さくなって宇宙に吸いこまれていき、風が強い、風が強い、クグチは宇宙を見て動けない。目をみはれば太陽が……赤い。紅蓮の竈だ。老いた女が落ちていく。
「見つけて!」
叫びが老婆を砕いた。血が散る。苺果汁だ。
びくりとして起きた時には、胃の内容物がもう喉までこみ上げていた。立ち上がる。急に動いたせいで頭がひどく痛む。眩暈がし、背もたれに手をかけ、よろめきながら男子トイレに駆けこむと、便器の蓋が自動で上がりきるのも待たずに吐いた。夕食も昼食も口から出た。胃はからになり、何かに手ひどくやられてしまったような敗北感だけ残った。
便器の蓋を閉め、そこに座り、頭を抱えた。
気がすんでから個室を出ると、薄ぼんやりと窓に映る自分の姿の向こうで地が
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