第2話 泣ク看守
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言いだな」
「その通りだろう。辞令は出ている。行け」
強羅木が机の向こうからクリアファイルを寄越してきた。支社長の名前入りの、確かに辞令だった。会ったこともない男だ。会ったこともない男のもとから、会ったこともない男のもとへ。一緒に航空会社の封筒が入っている。今晩のチケットだった。
「お前にとっては故郷への帰還だな」
クグチは目線を、チケットから強羅木に戻した。
「お前の父親の故郷でもある」
「よく覚えていない」
「道東支社に向坂ゴエイという男がいる。俺と同じ立場の人間だ。そいつはお前の父親の友人だ。暫くはその男を頼るがいい」
「信用できる男なのか?」
「さあな」
「さあなって。知り合いじゃないのか」
「旧友だ。俺とそいつと、お前の父親は大学の同期生だった。だがお前がそいつを頼っていいのは、道東の暮らしに慣れるまでだ。結局、お前が最後に信用するのはお前自身だ。俺を信用していないのと同じようにな」
クグチはチケットを封筒に戻しながら、この男は何を言いたいのだろうと考えた。義理とはいえ家族だ。十五年間家族らしい交歓が何もなかったことをクグチのせいにしているのか、あるいは単にこの世の中の誰も信じるなと? クグチにはわからない。
「何か質問は?」
質問はない。自分のことなのに、まるでどうでもよかった。どこにいようとどうせやる仕事は同じだろう。今と同程度の生活ができればそれ以上は望まない。
二度と帰って来れないとしても、それはそれで構わない。この男を家族として愛しているかと言われたら、そんなことはない。仕事も仕事仲間も全く好きではない。守るべき居住区の市民たちの暮らしにしたって、心から守りたいと思った事は一度もない。本当はどうなろうと知ったことではない。
自分の考えに、クグチは何となく絶望した。ない、というべく口を開いたその瞬間に、彼は気が変わった。
「あのハツセリという子はどうなった?」
強羅木は眉を片方あげ、意外そうな目で見つめ返してきた。
「先週の件で保護されただろう。守護天使のない女の子だ。補導されたと聞いたが、その後どうなった」
「それは、俺は知らん」
「あれは自分を幽霊、つまり廃電磁体だと言った。人間ではないと」
「それが本当なら生きておれんな」
強羅木は鼻で溜め息をついた。
「だがそんなことはあるまい。件の少女についてはお前以外の班員もレポートに書いている。本当に幽霊なら、UC銃を間近で浴びたんだ、消え残ったはずがない。俺はそいつを見てないが、間違いなく人間だ」
「もし仮に自分を幽霊だと信じている人間がいるとしたら、そんな人間はどうやって生まれると思う?」
「どうせ空想癖が高じた結果だ。深い意味などありはしない。何故そんなに行きがかりの女の子にこだわる?」
「……別に。言ってみただけだ」
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