第2話 泣ク看守
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言おうと言うまいと関係ない」
「コミュニケーション能力の高い人間は有能だ。そして幸福だ。少なくとも守護天使が定める幸福指数の基準ではな。頭がよく、体も健康で、家庭に問題がなければなお良い。だから幸福指数のために結婚する。幸福指数のために子を作る。幸福指数のために進学先や就職先を選ぶ。指数指数。幸福。天使。何が『自分の』役に立てる、だ! それで結局はお国のためかよ」
「ACJとそのサービスが受け入れられた結果だよ。サービスが時代と利用者のニーズに合うよう進化した結果だ」
「仰る通り、ごもっともだ。何の陰謀でもありゃしない。会社がそうしました、社会がそうしました、お客様がそうしました。そうやって人生そのものを、指数を競うゲームにしてしまった。そこに政治が絡んじまったらもう後には戻れない」
「強羅木君、何故そんなに怒ってるんだ?」
「俺にとってクグチが何だと思っている」
赤く充血した目で睨まれ、向坂は居ずまいを正した。
「明日宮君の、僕と君の親友の、遺児だ」
「そうだ。俺が引き取った。俺が育ててきた。お前じゃない。それをいきなりやって来て、寄越せだと? うわべばかりの、真意がわからない理屈のために?」
「僕個人の意向じゃない。道東の横尾支社長の意向だ。背後に本社の意向もある。横尾は南紀の支社長に明日宮君を送ってくれと正式に申し入れる。南紀の支社長はおそらく了承する。断る理由はない」
「じゃあ、お前は何しに来た」
「君に同意してほしくて来た。でなけりゃ君は、上の意向でいきなりクグチ君を横取りされる形になる」
「お前がクグチを預かりに来たというわけか? 心情的に、お前にクグチを預ける形にすることで、それで安心しろと、納得しろと、そういうつもりで来たのか」
「怒らないでくれ。君を愚弄しているんじゃない」
強羅木は黙りこんだ。
どうにもならないことはわかっていた。クグチは道東行きを拒絶しないだろう。いい顔もしないだろうが。かと言ってこの男にクグチを預けるなどとは死んでも言うつもりない。そんなことを言えば、どういいように使われても文句は言えなくなる。
もはやこの古い友も、昔のままではない。広大な北の大地ではしゃぎあっていた頃の、懐かしい友ではない。
強羅木は安いワインをグラスに注いだ。胸の悪くなる臭いがした。
―2―
翌週末までにことは全て運んだ。専ら面談用として使われている小会議室に呼び出され、クグチは強羅木と対面した。
「明日宮クグチ、配置換えだ。お前は道東支社に行くことになった」
クグチはぼんやり座っている。一瞬、目の中に驚きと戸惑いがよぎったが、それだけだった。
「決定事項ですか」
「そうだ」
「いつから」
「今日だ」
「急すぎる」
「不都合があるか」
「俺に何の予定もないことが前提の物
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