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Magic flare(マジック・フレア)
第2話 泣ク看守
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いる。適性を知るためだと、そう、自ら腹を立てているその理由でもって。指示を出さない理由がなかったから、口実が思いつかなかったから、クグチと、比較対象として他の部下たちに、指示を出した。
 激昂した理由を酒のせいにしてしまおうとも思ったが、いかにも安っぽい卑怯さに嫌気がさしてやめた。かわりに一言「すまん」と謝った。
「守護天使を持たない層の立派な職業になるだろうな、幽霊狩りは。名悪役だ。社会公認の憎まれ役。そうやってますます他の仕事に就けなくなる。ますますACJのシステムに捕らえられていく」
「何かあったのか、強羅木君。クグチ君のことでか?」
「先週、クグチの目の前で人が一人死んだ。サービス提供停止の対象者だ」
「……自殺か?」
「そうだ。ひどい死に様だった」
 向坂は沈黙を挟んでから、口を開いた。
「そういうことはたまにあると聞くが……道東で起きたことはないな。南紀でも初めてじゃないのか? 何にしろ大変だったな。さぞショックを受けたことだろう」
「顔には出さんがな。クグチだけじゃない。全員があの一件でやる気を失っている」
 重い溜め息と共に、しかし、と強羅木は思う。もともとやる気があってこの部署に入ってきた者はいない。特殊警備員たちはいつも不機嫌だ。とりあえず給料をもらっている分は真面目に働くが、好きでこの仕事をしているわけではないという態度を隠そうともしない。部署が異動になる望みはあってないようなものだ。それでも彼らがやめないのは、腐ってもACJの社員には違いないからだ。そのステータスが幸福指数に与える影響は大きい。好きでもない仕事の報酬として、Bランクの幸福指数を得ている。
「何だと言うんだ。何が幸福だ。何が天使だ」
 向坂は黙っている。
「元来守護天使には」強羅木は喋り続けた。「というより仮想体、電磁思考体はだな、家族の代わりになるようなものじゃないんだ。そんな機能はない。自分の思考の補佐のため、あくまで自分の役に立てるためにある」
「だけど今守護天使に求められている役割はそれじゃない」
 強羅木は、改めて向坂の顔を見た。
 裏切りを受けた気分になった。そんな気分になるとは、自分でも予期していなかった。
「守護天使も幸福指数も、今となっては絶対に社会に必要だ、強羅木君。国難に面した今、国にとって即戦力となる有能な人材が求められている。そうした人間の選別に、幸福指数ほど適した評価基準はない。違うか」
「もう何年国難に面しっぱなしだと思ってる。いい加減にしてくれ」
「みんな忘れてるみたいだが、戦争は磁気嵐のせいで停戦しているだけだ。終わってはいない。そしてACJの守護天使育成サービスは停戦期間中に立派な社会システムになった。今後も政府で、軍で、企業で、社会システムによって選ばれた人間は必要とされ続けるんだ。僕らが不満を
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