第二章
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第二章
「それは大丈夫ですから」
「大丈夫って?」
「一人で大丈夫ですから」
「けれど若し何かあったら」
危ないだろうと言おうとする。だが奈々はその前に言ってきたのだった。
「それはありません」
「だから何でそれはないの?」
「だって私が」
「私が?坂本が?」
「あっ、いえ」
彼の言葉を聞いてだ。はっと気付いた顔になって言葉を止めた。そうしてそのうえで一旦自分の左手を口に当ててだ。それから話すのだった。
「何でもないです」
「何でもないんだ」
「はい、ないです」
こう言うのである。
「気にしないで下さい」
「わかったよ。それじゃあ一人で?」
「はい、一人で来て下さい」
また彼に話す。
「湖に。そして中にある水中花を」
「取るんだ」
「そうです。水中花をです」
「わかったよ。じゃあ今度の日曜一人で湖に行くから」
「それで御願いします」
「けれど危なくないんだ」
健にはそれがどうしてもわからなかった。だが奈々に押し切られてしまった。そういう形になってしまったのである。彼は押しに弱い。
それにだ。奈々の顔を見るとだ。そうなってしまうものがあった。
二重の落ち着いた顔で眉は薄く形がいい。細面であり唇は薄いピンク色であり横に小さい。黒く背中の半ばまである髪である。背は小柄と言っていい。だが胸は大きくスタイルはかなりのものである。
その彼女の整った笑顔を見るとだ。ついつい押されてしまう。完全に奈々のペースで話は進みこの時はそれで終わったのだった。
そしてその下校の時だ。彼はその湖を見ながら呟いた。
「日曜にここなんだ」
湖は澄んでいて静かなものだ。岸辺にはボートがあり蓮も見える。そうした静かな湖を見ながらだ。そのうえでその日曜のことを考えていたのだ。
その日曜だ。彼は湖の岸辺に来た。服は学生服である。そしてその学校の鞄を持って来たのである。
彼に管理人のおじさんが話し掛けてきた。この湖のある土地一帯の所有者でもある。その人が声を掛けてきたのである。
「なあ兄ちゃん」
「はい?」
「ボートかい?それとも泳ぐのかい?」
「泳ぎます」
素直に答える健だった。
「今から」
「そうか、泳ぐのかい」
「駄目ですか?」
「いや、いいよ」
微笑んでそれはいいというのだった。
「じゃあ料金ね」
「お金ですか」
「三百円な」
それだけだというのだ。
「ボートだったら五百円だけれどな」
「三百円ですか」
「うん、それで泳ぐ前に準備体操は忘れないようにな」
「はい、わかってます」
湖の周りは緑の草が生えている。所々水草が生えてもいる。見れば今湖のところにいるのは彼と管理人だけだ。他には誰もいない。
その静かなプールを見ながらだ。彼はまた言った。
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