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日向の兎
1部
日向 ネジ
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、落ち着いて自分のやった事を思い返した俺はヒジリ様に頭を下げに行ったが、その返事はいつも通りの平坦な声でかえってきた。
「何を謝る、君は私に挑みたいといい私はそれを受けた、それ以上でもそれ以下でもない真っ当な内容の契約ではないか」
「ですがヒジリ様は宗家の次期当主なのですよ!?」
その言葉を口にした瞬間、俺はヒジリ様の両腕に頭を固定され、彼女の赤い瞳に睨みつけられた。
「ネジ、次に君が宗家の次期当主と私を呼べば、私は君を解体してしまうかもしれない。二度とその言葉で私を呼ぶんじゃない」
「は、はい」
彼女は俺に初めて怒りを向け、その時俺は彼女に感情というものがあるのだと当たり前の事を知った。だが、そう感じてしまうほどに彼女は感情を表に出すことはそれまで無かった。
その歳の子供にとってなに一つ楽しみのない、ひたすら礼儀作法や教養を身につけ、彼女にとっては退屈な柔拳の鍛錬をするだけの生活を彼女は続けながらも弱音を吐いたことはない。
今の俺が同じことを出来るかと問われれば無理だと答えることを、たかだか3つで彼女は淡々とこなしたのだ。
とはいえ、彼女のそばに居続けて分かったのだが、そう言った態度は自身は律しているだけであると知ったのはその数日後だった。
朝食の時間になっても姿を現さなかったヒジリ様を呼びに行くために、ヒアシ様に命じられ彼女の部屋に向かい、障子越しに彼女を呼ぶと彼女はいつも通りの様子で出てきた。しかし、僅かに見えた彼女の部屋はまるで獰猛な獣が暴れ回ったかのように壁は抉れ、床には穴が空き、天井にも無数の傷があった。
その事を彼女に尋ねると、彼女は少し眉間に皺を寄せて不機嫌な声で答えた。
「私も所詮は餓鬼だということだ」
「ああ、八つ当たりですね?」
「……事実その通りなので否定せんが、その明け透けな物言いは気に食わんな」
そんな事が幾度もあり、俺の中でのヒジリ様は俺と同じ歳の子供でありながら日向の名を背負おうと足掻く少女という印象に変わった。
これが次に分かった彼女の優れたもう一つの点だ。どれ程苦しかろうと、どれ程辛かろうと表立って弱音を吐かない、上に立つ者の素質としてこれ以上の物はない。
分家は宗家の為にある運命、俺はそれが嫌だった。しかし、もし誰かの下で生きなければならないというのならば、俺はこの人の下で生きるだろう。ならば、その点俺の運命も悪くはない。
俺がそう思えるようになった頃、あの事件は起きた。
ヒジリ様の妹のヒナタ様が同盟を結んだばかりの雲隠れの里の忍頭に誘拐されかけたのだ。ヒジリ様はヒナタ様の事を大層可愛がっており、俺もその時まではヒナタ様の事を大事に思えた。
しかし、その事件でヒジリ様はその忍頭を屋敷の前で文字通りただの肉片に変え、それを条約違反として雲隠れの里は戦争回避の
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