第五章
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「だからどんな生きものかはな」
「わからなかったですか」
「全くな」
そうだったというのだ。
「俺が見た限りじゃな」
「そうですか」
「もうな」
外を見ればだ、既に。
暗くなろうとしていた、これ以上はだった。
「見ることもな」
「出来ないですね」
「ああ、これじゃあな」
「諦めるしかないですね」
「船に戻るか」
トムハウゼンはボートの上に上がってからこう言った。
「そうしようか」
「わかりました、それじゃあ」
二人は夜になる前に船に戻った、そしてだった。
船長にことの次第を話した、船長はトムハウゼン達の話を聞いてこう言った。
「そうか、わからなかったか」
「あまりにも大き過ぎて」
トムハウゼンはこう述べる。
「ですから」
「そうか、人間の目ではわからなかった」
「大き過ぎました」
「クラーケンはか」
「あまりにも大きいと」
「ああ、人間だとな」
「わからないんですね」
トムハウゼンはこのことがわかったという顔で船長に話す。
「そうしたものなんですね」
「そうみたいだな」
「所詮人間は小さいですね」
トムハウゼンは自分がわかったことをここで船長に話すのだった。
「小さいんで」
「大きい相手のことはわからないか」
「はい、そうですね」
「何でもわかるものじゃないな」
「そういうことですね、クラーケンにしても」
「他のこともだな」
船長はしみじみとして言った。
「海のことも世界のあらゆることも」
「そうでしょうね、それじゃあ」
「元の航路に戻るか、そしてな」
「仕事をしますか」
「明日からな」
船長はこう言ってだ、そしてだった。
船はクラーケンから離れて元の航路に戻った、クラーケンは確かにいた。しかしそれが何なのかはわからなかった。
それでだ、トムハウゼンは港に戻ってから酒場でニルソンにも言った。
「人間なんてちっぽけだな」
「ですね、クラーケンの前では」
「大き過ぎる相手はわからないんだよ」
「小さな存在であるが故に」
「俺はそのことがわかったよ」
こう言うのだった、木の杯の中のビールを飲みながら。
「よくな」
「そのことがわかったんですね」
「ああ、人間は小さくてな」
「大き過ぎる相手のことはわからない」
「このことがわかったよ、よくな」
こう言いつつニルソンと共に飲むだった、そのわかったことを忘れないでおこうと自分の中で強く誓いながら。
クラーケン 完
2014・6・20
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