紗矢華相手です
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「……ねぇ、明人。」
紗矢華は先ほどよりも強く、眠ったままの彼の手を握り締める。
更に、握る力を強めて……紗矢華は囁きかけるような呟きで、明人に語り掛ける。
「お土産にね、ラフォリア王女のおすすめスイーツをいただいたのよ。彼女も明人のことになると熱心に話してね、よほど気に入られてるのね。」
以前無人島で起きた出来事に、明人も巻き込まれたらしく。
そこで王女と知り合った彼は親しき仲で談笑するほどの交友を深めたようだ。
それに紗矢華はまたもや胸のざわめきを覚えるのだが。
またもやそのことに怒声を浴びせて、本心を打ち明ける事は叶わなかった。
「雪菜から貴方のこと色々と聞いているんだけど、ケーキが好きなんだってね。明人も気に入るようなスイーツを王女からいただいてるから、食べましょうよ。私だって食べたいもの、絶対だからね。」
意外にも彼は甘党らしく、そのことで雪菜や古城たちと食事する時はケーキを御馳走するほど、手作りもするほど大好きらしい。
そんな彼から、絃神島のおすすめを食べ合うのも悪くないかな。
なんてことを考えた事もあった。
―――そんな彼は、未だに目覚めない。
「……絶対、なんだから。だから、明人。」
起きなさいよ、起きないと……絶対に許さないんだから。
そんな強気の言葉も、声色が原因でか細くなってしまっている。
依然として、彼は目覚めないまま時が過ぎていく。
―――紗矢華は、夢を見ていた。
海、浜辺。青々とした世界がそこには広がっていた。
近代的な建物もない、広々とした空間の中に―――視界に、明人はいた。
彼は、自分と向かい合っている。
口元は弧を描いており、微笑んでいた。
口元が、開いた。何かを紗矢華に語り掛けているようだが。
紗矢華の耳には何も届かない。声も、音も、何もかも伝わってこない。
何を自分に伝播させようとしているのか分からないまま、明人は踵を返す。
もう何も言う事は無い、伝えるべき事は伝えた。
そう言わんばかりに彼は、足早に紗矢華から離れていく。
紗矢華は、口パクにしか見えなかった故に何も聞き届いていない。
そのまま帰ろうと言うのか、離れようと言うのか。
駄目だ、絶対に許さない。
紗矢華はその想いで、去っていこうとする明人を駆け足で追っていく。
夢である事は分かっている。こんな世界を自分は知らないし、見た事も足を運んだ事もない。
けれど、現実では彼は眠っているのだ。
その眠った彼が去っていこうとしている。夢だと分かっているけれど、あれは止めなければきっと後悔する。
打ち明けられない
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