下忍編
悪夢
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驚いた。
そこには、今日闘ったあの青年がいる。蛇の様だと、口から覗く長い舌を見てそう思いつつ、カトナはその青年が吐く言葉を聞く。
―お前は誰かを救うには、何かを犠牲にするしかない。
幾重にも響いては脳をかき回す、うざったらしいノイズに、何も言わず、カトナは目を伏せた。
その手にはいつの間にか、見たことの無い形をした刀が握られている。
その形態は、今まで一度もカトナが変形させたことが無い形であり、カトナが知らない形態だ。
カトナはその形態を黙って見つめつつ、目の前に立った小さな子供―三歳くらいに見える幼子を見る。
赤い髪の毛を揺らした幼子は、ずたずたのぼろぼろになった服をゆらゆらと揺らしつつ、カトナを正面から睨み付けた。
子供が真っ赤に泣きはらした目で、覚悟を決めた様子でカトナに向かって言う。
「私が、守るんだ」
幼子はそう言いながら、カトナに向かってその小さな腕を伸ばす。
「私が、絶対に守り抜くんだ」
「どんなことをしてでも、私が、大切な物すべて、守るんだ」
小さな小さなその腕では、守れるものなんて少ないのに。
細い細いその体では、誰かの盾になんかなれないのに。
脆い脆いその心では、全てを押し殺すことなんてできないのに。
なのに、なぜそこまで幼子は自分を追い込むのか。
カトナはよく知っていて、だからこそ、目を逸らしたくてたまらなかった。
自分が選んだ選択肢だから後悔が無い…なんていうのは、強く気高い人間だけに許された言葉だ。
カトナはいつまでも後悔している。あの時、どうして自分は弱かったのかと後悔し、どうして自分はこんなにも役立たずなのかと嫌悪し、いつもやりなおしたくてたまらない。耐えきれないし、溜めれない。
それでもなんとかその気持ちを表面に出さないのは、カトナが化け物になるという選択肢を選んだからだ。
じゃなきゃ、カトナは今頃泣き叫んでしまっている。もういやだよ、そう言って、声を大にして逃げだしてしまっている。
幼子が言う。歌うように、語りかけるように、優しく甘いその声で。
「だって、言ってたから。だって、大好きだから」
そこまで言って、幼子は目の前の少女を睨み付け、呪詛に似た言葉を吐いた。
「私はずっと、嫌えないよ。大好きなままだよ。…どうがんばっても、嫌えないよ」
一生縛られたまま。逃げられないんだと告げられて、カトナはそれでも何も言わず目を伏せる。
幼子はそんなカトナを睨み付けながらも、ふと、俯いた。
「…ほんとは、もう、いきたくないよ」
真っ赤な目が見開かれて、ぽろりと、涙が落ちる。
カトナは僅かに目を見開き、その幼子を見つめる。
その心の中に渦巻く、嫉妬に似た嫌悪を全身から発しな
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