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第三章

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「そうされて下さいね」
「わかりました、では電車が来たら」
「もうすぐです」
 あと少しからもうすぐになってきていた、電車が来る時間は最初はどれだけ遠くにあっても向こうから来てくれる。
 それは私の場合でも今でも同じだ、それでだった。
 電車が来るのはもうすぐになっていた、私がこの街を後にする為に乗る電車が来るのは。
 その電車に笑顔で乗って欲しい、その言葉にだ。私はまだ笑顔ではないけれど駅員さんに確かに約束した。
「笑顔になりますね」
「お願いしますよ。あと一分です」
 駅員さんはホームの時計、灯りでホームにあるその時計を見て言ってくれた。
「あと一分で来ますよ」
「本当に少しですね」
「そうですね、笑顔になれられる時は」
 この街を去るのではなく今はこうした言葉になっていた。
「あと少しです」
「ええ、あと少しで私は」
 私もだった、自分から言った。
「笑顔になります」
「そうなりましょう」
 こうした話をしてだ、ここでだった。
 右手の暗闇から光が来た、その光が合図だった。
 電車が来た、電車は私達の前を横切りながらそのうえで速度をゆっくりとさせて停車してきた。扉の一つが私の前で左右に開いた。
 その中に入れば私はこの街に戻ることはない、新しい街に向かう。そして駅員さんともこれでもう二度とだった。
 私は電車の中に足を踏み入れた、そうして駅員さんに顔を向けた。駅員さんは私を見てにこにことしている。
 その駅員さんにだ、私は微笑んだ。その微笑みは自然に出た。
 そしてその微笑みと共にだ、私はこう言った。
「では行ってきます」
「行って来て下さい」
 駅員さんは笑顔のまま私に言ってくれた、そうして。
 電車の扉が閉まりゆっくりと進みはじめた。私は電車の席に座ってその出発の中にいた。自分でも驚く位自然な笑顔になっている。
 街は今も私の背にある、後ろは振り返らなかった。
 けれど私は笑顔だった、駅員さんに向けた笑顔をそのままにして遠い新しい街に向かった。彼氏とのことが全ていい思い出になろうとしていることを感じながら。


駅   完


                           2014・2・1
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