第四章
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「これは大降りになるね」
「なりますか」
「早いうちに帰った方がいいし」
それに、というのだ。
「大きな傘がいいね」
「身体全体を覆える」
「そうした傘がいいよ」
こう私と俊朗君に話してくれた。
「ここはね」
「わかりました、それじゃあ」
俊朗君はおじさんの言葉に応えて手元にあった傘を一本手に取った。赤いよく目立つ色の傘だった。
「この傘にします」
「その傘だね」
「はい、かなり大きいですから」
「うん、そこにだね」
「二人で入ります」
俊朗君は私を見つつおじさんに答えた、けれど。
その俊朗君の言葉にだ、私は驚いて言った。
「えっ、その傘に」
「一緒に入って帰ろうね」
私にも笑顔で言った。
「そうしようね」
「二人でなの」
「駄目かな」
「いえ、ちょっとね」
「ちょっと?」
「それは考えてなかったから」
それでとだ、私は彼に答えた。
「私も傘を買おうって」
「牧子ちゃんは牧子ちゃんで買ってね」
そして、というのだ。
「帰るのはね」
「その傘に二人で入ってそうして」
「帰らない?」
「ああ、それならお嬢ちゃんはね」
おじさんは俊朗君の言葉を聞いてすかさず私に折り畳み傘を差し出して言って来た。
「これがいいよ」
「いざという時にですね」
「そう、折り畳み傘があると助かるからね」
「そうですね、それじゃあ」
「今日の帰りはね」
また俊朗君が言って来た。
「二人で帰ろう」
「それじゃあ」
私も彼の言葉に頷いた、それも笑顔で。
そうして私は折り畳み傘を買って彼はその大きな傘を買ってだった。二人でその傘の中に入って帰ることにした。
傘屋さんを出る時には本降りになってきた、それで寒くもなってきた。私はその寒さを感じて困った顔になって言った。
「本格的に降ってきたわね」
「そうだね、それじゃあね」
俊朗君は私の横から言って来た。
「これからね」
「ええ、傘を開いて」
「中に入っていいのよね」
「その為に買ったからね」
私に優しい笑顔と声で言ってくれた。
「そうしよう」
「それじゃあ」
私は彼が開いてくれたその赤い大きな傘の中に入った、そうして雨の街の中を進みはじめた。その中でだった。
私は自分達の周り、傘の外に降る雨とその雨の中の街を見ながら傘をさしてくれている俊朗君にこう言った。
「寒い時の雨はね」
「嫌いだよね」
「ええ、何度も言うけれど」
本当にそう思う、心から。
けれどだった、今はこうも思っているのでその思いを俊朗君に告げた。
「けれど今はね」
「今は?」
「暖かいわ」
彼に顔を向けて答えた。
「とてもね」
「雨なのに?」
「そう、雨でもね」
「フォンデュとワインのせいかな」
「それも
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