二心同体の愚者
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も言うべきものであった。もっとも、その奇跡も終わりの時が近づいていた。
「しかし、本当によくやるものじゃ。が、そろそろ、飽きてきたのう」
最初の内は、透夜のあがきを喜んでいた老人だったが、流石に飽きが来ていた。それに、そもそも老人が期待していたのは、己の孫より幼い子供が無残に殺されるシーンである。はっきりいえば、物足りなかったのである。
「ご安心下さい、もう限界でしょう。いくら知能が高くとも、あれは五歳児です。流石に体力が保ちません」
残念ながら、その言葉はどこまでも正しかった。観察者たる二人が見つめるモニターの中で、20回目の回避を成功させた少年は起き上がってすぐに膝をついたからだ。もう、すでに透夜には立っているだけの体力も気力も残されていなかったのである。そもそも、体力など15回目あたりで枯渇していたし、後の5回は気力だけでなしたようなものである。そして、それすらもシャドウがこちらを嬲るようにしてきたからこそできたことであった。すなわち、正真正銘の限界である。最早、透夜にも『彼』にもどうすることもできない。
「ごめん、もう立てないよ…ゴフッ」
(ああ、お前はよく頑張ったさ。だから、謝る必要なんてない)
「でも、僕が死んだら先生は……」
(気にするな。元々俺は死んでるはずなんだ。それなのに、何を間違ったかこうして生き恥を晒している。まあ、お前に会えたんだから、悪くはないが)
「先生だけでも生きて欲しいと思ったけど……ごめん。一人は嫌だ、最後まで一緒にいてくれる?」
(ふん、そんなのは当然だ。俺は最後の最後までお前と一緒だ)
「ありがとう、先生。不思議ともう怖くないや」
ボロボロの体でぎこちなく笑う透夜に『彼』は忸怩たる想いを飲み込んで沈黙する。
透夜が呼称する先生こと『彼』は、元々『八神透真』という男性であった。遅咲きながらも難関の国家試験に合格し、ようやく念願の道を歩みだそうとしたその矢先、不運にも交通事故で死んだ。生憎と即死でなかったので、その時のことはよく覚えている。信号を無視して突っ込んでくる大型トラック、全身を砕かれたかのような衝撃、地面に叩きつけられて転がり皮膚を削られる痛み。間違いなく死んだと言える致命傷と感じた。それにも関わらず、男は気づけば赤子の中にいたのだ。とはいっても、最初は赤子の中にいるなどとは思わなかった。運よく生き延びて、病院に運ばれたのだと思った。体が動かせないのも、声を出せないのも、それ程の重傷を負ったからだと思っていた。
しかし、どうにもおかしなことがあった。透真がどうにか声を出そうと四苦八苦していたにも関わらず、勝手に自分の体が声を上げて泣き出したからだ。自分は泣くつもりもなく、また声を上げている感覚もないとい
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