二心同体の愚者
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モニターから見る者がいた。一人は大分年嵩の男で、翁といっていい老人であるが、この実験の元凶たる男であり、ここでの実験の全てはその狂気を具現化するためのものである。感心するような言葉とは裏腹に嗜虐の笑を浮かべている。
「確かに大したものですが、あれは欠陥品です。先天的な能力者と比べるのもおこがましい適性ゼロですから、覚醒も望めません。あれには期待していたのですが、流石に適性ゼロでは…。覚醒を促す薬は貴重ですからね、無駄にはできません。残念です」
冷酷に観察者として判断を下すのは、この施設の責任者であり、研究者の長である男だ。口では残念と言っているが、目と表情は失望に彩られており、露程も信じられない。
酷薄な目で見られる中、透夜は必死で回避に専念していた。
透夜のその異常には、当然秘密があった。とはいっても、それは彼にしか分からないことである。少年の中にはもう一人の自分とも言うべき存在『彼』がいて、様々なことを教授してくれたのだった。
とは言っても、透夜が『彼』を認識したのは、両親が事故で死んで、遺産全てを掠め取った叔父から桐条に売り飛ばされた(もっともこの時は一時的に預けられたと透夜は思っていた)時である。優しく頼りがいのあると思っていた叔父が、実のところ遺産狙いの下種であったことを全てが終わってしまってから、透夜は『彼』から教えられた。
『彼』が言うには、『彼』は名こそ違えど、並行世界の自分(『彼』はこの世界をゲームの物語として知っているそうだ)であり、生まれてからずっと透夜の中にいたらしい。今までも、何度も透夜に話しかけていたらしいが、今に至るまで言葉が届いたことはなかったという。幼い透夜には半分も理解できなかったが、自分が孤独ではないことが分かれば充分であった。唯一の縁者である叔父に裏切られ、『桐条』に売り飛ばされた透夜にとって、何より恐ろしいのは孤独であったからだ。『彼』が唯一の味方であり、話相手になってくれるのならば、それ以上望む事はなかった。
『彼』は桐条の施設にひきとられてから、色々なことを教えてくれた。まだ、小学生にも満たない透夜に文字や九九をはじめとした四則演算を。それは折り紙やあやとり等の一人遊びにまで至った。透夜はそれらを学び、大いに活用した。同じ施設内の子供らに教えてやり、一緒に遊んだりもした。
しかし、それは傍目から見れば異常でしかない。5歳に満たない少年が、誰に教えられたわけでもなく、漢字の練習をし、四則演算をこなし、複雑な折り紙を作ってみせる。実験体であり、死んでも構わない彼等に知識をましてや娯楽を教授するような物好きは、人体実験という倫理を踏み外した行いを是とする研究者達の中には存在しないのだから、当然といえば当然である。
結果として、透夜は奇
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