第三章
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第三章
「それでな。何の日なんだ?」
「アルカポネが対立するファミリーの連中を始末した日だろ」
別の一人が言った。
「その日だろ」
「いや、違うだろ」
だがそれはすぐに否定された。
「ほら、誰かが死んだ日だよ」
「誰かって?」
「名前は忘れたけれどな」
それは知らないというのだ。
「それでもな」
「誰か死んだのか」
「名前は知らないぞ」
またこのことを言うのだった。
「けれどそれでもな」
「死んだのは間違いないんだな」
「ああ、それは間違いない」
このことはしっかりと話される。死んだのは確実だと。
「処刑されたんだよ」
「随分酷い話だな」
「何でも結婚が許されない愛し合う二人を結婚させてな。それで処刑されたらしいな」
「酷い話だな、それはまた」
話を聞く店員はそれを聞いて述べた。
「本当にな」
「そう思うよ、俺も」
話す店員も同じ考えだった。その通りだというのだ。
「全くな」
「それでこの日はあれか」
バレンタインの話にもなった。
「愛し合う二人がチョコレートを」
「ああ、それでそうなったらしいな」
もっともこれはチョコレート業界がチョコレートを売る為にこじつけたものだとも言われている。だが真実は今はどうでもいいものであった。
「それでな」
「そうか、それでか」
「ああ、それでだ」
また話すその店員だった。
「チョコレートで愛し合う二人が結ばれる日になったんだよ」
「その人はそれで喜んでいるかな」
「喜んでいたらいいな」
少し考えながらの言葉だった。
「それでな。喜んでいてくれたらな」
「処刑されながらも愛し合う二人を結ばせたその人が今はチョコレートで結ばれるようになってか」
「時代は変わったよ。誰でも愛し合うことができて」
言葉がセンチメンタルになっていた。
「幸せになれるんだからな。チョコレートでな」
そのチョコレートは飛ぶ様に売れている。そしてそれを手渡す女の子と受け取る男の子の笑顔に満ちていた。それを空から見る者がいた。その顔は。
優しく微笑んでいた。いいものを見ている顔だった。その顔で幸せな恋人達を満足して見ているのだった。
恋をしてはならない 完
2010・5・5
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