第31話 神に従う赤い子羊
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。カウンターに座ったらトイレ以外に動こうとしないし、幾らモーションの砲撃を仕掛けても小揺るぎもしないって。どんな『主砲』をお持ちなのか味わってみたいとも、言っていたわよ」
「幸いなのか不幸にしてなのか、一度も使ったことがないよ。実際あるのかすら、自分でも正直自信がない」
「あら、お国にはそういう人はいらっしゃらないの?」
「同僚に言わせると『シスコンで口から先に生まれた男』だからモテないんだそうだ」
俺がそう応えると、ドミニクはしばらく首をかしげたまま俺を見つめている。まだ右目まで赤茶色の髪は届いていないが、艶やかな髪が落ち着いた照明に照らされて、悩ましげにきらめいている。本人は卑下するが、充分に美人だと思う。俺に僅かだが好意を持ってくれていることもわかる。だが例え九割九分ルビンスキーに繋がっていないとは分かっていても、デートに誘ったりするのはどうにも気が引けた。
「……さしあたって、私も妹のように思われているという事かしら?」
「三人もいればもう義妹は充分だよ。新年のプレゼントをどうしようか、今から頭が痛いんだ」
「妹さん、お幾つ?」
「来年度で上から一三歳・一〇歳・七歳」
「可愛い盛りね。画像とかお持ち?」
俺が軍服姿のグレゴリー叔父や軍官舎の写っていない三人の集合写真を選んでドミニクに見せると、あら、と意外そうな声を上げた。
「みんな美人だけど、真ん中の妹さんだけ毛並みがちがうのね」
「いや、全員血の繋がった妹だよ。家族の中で血が繋がっていないのは俺だけだし」
「……ビクトル、養子なの? それで養われ先の義理の妹さんに、新年のプレゼントを贈るわけ? 貴方、ちょっと人が良すぎない?」
「いやこの歳まで養ってもらったんだから、むしろ当然じゃないか?」
と前世日本人らしく答えると、ドミニクは心底呆れたといった表情を浮かべている。フェザーンの家族愛がそれほど薄いとは思えないが、家族が血の繋がっていない年老いた叔父一人ということが影響しているのかも知れない。しばらくすると、『よし』と少し気合いが入った声でドミニクは呟くと、俺に身体ごと向き直って言った。
「今週の日曜日。良かったら、私と義妹さんのプレゼントを買いにご一緒できないかしら?」
句読点の位置が間違っている事を祈りつつ、覚悟を決めて俺はドミニクの申し出を了承することにするのだった。
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