第31話 神に従う赤い子羊
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ればそのままその通りというべきだ。言葉に裏なく、正直に分析したというのであれば、ルビンスキーがその利発さ故に情人にしたという話も信じられる。しかし……シトレのクソ親父がいつも俺に言っている『軍人に向いていない』というのが、こんな時に役に立つというのも、なんだか癪にさわる。
「会社の名前は聞かないでほしいね」
「贔屓のお客さんを困らせるわけがないでしょう? しかも私の夢に投資してくれる確かな金蔓に」
「正直だなぁ……しかし、君の夢ってなんだ?」
ドミニクの夢。少なくともルビンスキーの情人になることではないだろう。ただの情人ならルパートの母親のように捨てられるのがオチだ。夢と聞かれてドミニクは一瞬驚いた表情を俺に見せた後、自嘲気味に応える。
「歌手よ。女優にもなりたいけれど、今は歌手」
「君は美人だし、オーディションを受ければすんなり通るんじゃないのか?」
「私くらいの美人なんてこのフェザーンには『一束幾ら』でいるわよ。歌もダンスも同じ。オーディションでは良いところまでは行くけれど、なかなか最後までは行けないわ……覚悟がないからかしらね」
「覚悟?」
ドミニクからとても聞くような言葉ではないので俺が問い返すと、ドミニクは困ったような表情を浮かべる。答えたくないというよりは、答えにくいという感じか。
「芸能事務所とかに所属する事よ……そしていろいろな人の『相手』をすること。『相手』をするなら、ステージでも何でも用意するって人は結構いるわ」
『相手』という意味は言葉通りではないことはわかる。女性として譲れない一線だということも。ただここはフェザーンで、『国でも親でも売り払え……ただし出来るだけ高く』が格言となる場所だ。故にドミニクも『覚悟』という言葉を使ったのだろう……ルビンスキーの魔手が届いていないことに、俺は心底ホッとした。
「私は戦う限りは勝ちたい。でも守りたい物もある。だからクラブやいろいろな処を廻って、気のいいパトロンを見つけようと思ったけれど……やっぱり甘いのね、私」
「一五歳の女の子ならば、それくらいが普通じゃないか?」
「貴方、ご家族はいて?」
ドミニクの突然の問いかけに、俺は戸惑った。何故そう言う質問がでてくるのか、瞬時には分からない。だが俺が答えるまでもなく、ドミニクは言葉を続ける。
「私には叔父さんしかいないわ。技師だった父は宇宙船の事故で死亡。音楽教師だった母は病気で。兄弟はいないし、残った血縁の叔母さんも一昨年亡くなった。音楽をやりたくてもお金がない。血の繋がらない叔父さんにそこまで甘えるわけにはいかない。お金が全てのフェザーンで、私の財産といえばこの身体と声だけ」
「……」
「声を売り物にするなら、身体は絶対に売りたくない……ただそれだけ」
あと四年でルビンスキーに見初め
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