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横浜事変-the mixing black&white-
ミル・アクスタートは自身の矜持を保つために銃を握る
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ポカポカしていたのを覚えている。
そうして聞く事になった『彼』の話は、彼女からしてみれば子供の喧嘩と同程度だった。所属する組織の壊滅。その手伝いの代わりに、組織の全貌を教えるという。
話を聞き出した最初は、相手を測り兼ねて嫌疑の念を抱いていた。外見は堅気のようで、実は殺し屋。そんな人間から自分の存在を認めてもらったぐらいで心が完全に傾く程、ミルはバカでも無ければ阿呆でもない。
しかし話を聞いている一方で、こんな考えが浮かんでしまった。
――もしかしたら、この仕事を通じて私は、もっと自分になれるかもしれない。
この街に来て、自分は随分自堕落な生活を過ごしてしまった。その結果、自分の所為で自分が悩み続ける事になってしまった。けれど、ここで仕事を引き受ければ、自分の事も任務の事も両方解決出来るのではないか?そんな淡い考えが、脳裏をじわじわと浸食する。
彼女が思い描く自分は、今の自分ではない。常に無表情で、淡々と人を殺せる人間こそが本当のミル・アクスタートなのだ。
ならば『彼』からの依頼は、今の自分にとっても武器商社にとっても良い話ではないか。そう考えていたら、次第にその気になってしまっていた。それに、このままだと横浜の裏側に関係出来ずじまいだ。せっかくのチャンスを逃すわけにもいかなかった。
あらゆる結論を自分の頭で収束させ、彼女が下した答えは、依頼を引き受けるものだった。
『彼』と別れてから、ミルはこの事をヘヴンヴォイスの面々に報告した。話を聞いて、彼らは俄然やる気になった。ルースだけが「俺は音楽バンド人生を捨てきれねえなぁ」と呟いたが、すでに右手を手袋でカバーしているのが、未練はないと告げていた。
未練。そんなものは元から存在していない。自分達は、このために国を渡って来たのだから。
***
現在
――そろそろか。
過去を思い返していたミルは、自分の携帯が着信で震えた事で我に返った。メールの内容を見て、彼女は静かに立ち上がった。
そして次の瞬間、外から風船が割れたような音がドア越しに聞こえてきた。どうやら、殺し屋同士の殺し合いが始まったようだ。
――近くを護衛している奴らの顔は覚えている。無駄な殺しは絶対にない。
――私はもう金森クルミじゃない。私の名前は……。
すうっと空気中の酸素を肺に取り入れ、息と共に自分を再確認する言葉を吐き出した。
「私は、ミル・アクスタートだ」
ロシアからやって来た殺し屋は、灰色の目の奥に広がる殺意を全身に滾らせながら、ゆっくりと戦場へと足を向けた。
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