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横浜事変-the mixing black&white-
ミル・アクスタートは自身の矜持を保つために銃を握る
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しかった。これまで手を血で染める事しか出来なかった自分が、今度は人を喜ばせている。それが滑稽に思えて、逆に楽しかった。
しかし、それはどうしようもない傲慢だと彼女は悟った。幼い頃から殺人教育を受けて育った自分が、どうしてこんなに平穏な日常に身を浸せているのか。そんなのは罪よりも重い冒涜に等しいのではないか。ミルはそうやって、自分の中に現れたもう一つの感情を無理矢理閉じ込めようとした。
――何で、簡単に作れた筈の無表情が作れないんだろう。
『殺し屋は感情豊かではない』。そう言った父に従って、ミルは全ての感情を腹奥で留まらせる事にしていた。故に、彼女は常に鉄仮面を貼り付け、他人との交流をなるべく避けて生きてきた。武器商社の中でも、話す人間はヘヴンヴォイスの面々と社長がほとんどだった。
――でも、そんな私の決意はあっさり砕かれた。
スカウトマンに『もうちょっと笑おうか?』と言われた時、ミルはいとも簡単に笑顔というものを形作ってしまった。それを意識したとき、彼女は自分に対する憤りと悔しさで思わずその場から走って逃げた。
しかし、日を重ねるにつれてミルの感情は思う存分に引き出され、金森クルミのキャラは簡単に確立した。それは嬉しい事なのだが、ミルにとっては悲しかった。自分が何十年も取り繕ってきた顔に色が塗られ、それを見て誰かが喜ぶ。それは皮肉な事に、ミル自身を苦しめ続けていたのだ。
だからこそ、あの時『彼』から声を掛けられた時、彼女はどこか安堵していた。
『ロシアの殺し屋さんが、横浜に何をしにきたんだい?』
柔和な笑みでそう言った『彼』は、自身を殺し屋と名乗った。あまりにも唐突な告白に呆気に取られていたミルに『彼』は言った。
『君達の目的を叶える代わりに、手を組まない?簡単な話だよ、この街の裏を一回だけリセットするだけだから』
早い話、持ちつ持たれつの関係になろうと言っているのだ。目の前の青年の意図を測りかねていると、殺し屋は殺し屋らしかぬ笑みでこう言った。
『君は街に揉まれ過ぎた。そろそろ本当の自分と再会しなくちゃダメなんじゃないかい?』
その言葉が、半信半疑ながら『彼』の話を聞くきっかけとなった。
青年はミルの内に溢れる本心――殺し屋の自分を取り戻すきっかけに出会うこと――を見抜いていたのだ。ミル自身それが分かっていたのだが、今はそれで良かった。
自分のことを、まだ殺し屋として見てくれている人がいる。当然ヘヴンヴォイスは皆が殺し屋なので言うまでもない。しかし、それ以外で自分の本性を知る人間はいなかった。だからこそ、赤の他人から『殺し屋』として話しかけられたのが嬉しかった。相手が自分の素性を知っている時点でただ者ではないのは承知していた。それでも胸が
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