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横浜事変-the mixing black&white-
日常が少しずつ苦みを帯びている事にケンジは気付かない
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、彼らがここにいたらかなり興奮するだろうな、と苦笑する。そこで今頃になって周りに目を通してみた。やはり買い物のついでに来た人が多いのだろうか、子連れの女性や中年女性が買い物袋を提げて楽しそうにしているのがよく見受けられる。学生の姿も確認したが、あいにく他校の生徒だった。一人でいるのは少なからず自分だけのようだ。

 ――……なんか惨めになってきた。今度は誰かと一緒に行こう。

 自分の無防備さに反省しつつ、演奏の準備に入った4人組のバンドに目をやる。紅一点の女性はキーボード、『葉月』はボーカル、その他にギターとドラムという、少しイレギュラーの組み合わせだった。ありがちなのはボーカル兼ギターなのだが、『葉月』は楽器と声を両立しない人らしい。

 最初こそ不安定に思えたが、演奏を聴いてケンジは前言撤回せざるを得なくなった。

 確かに彼らはベースがいない分、曲が空疎に聴こえる虞があるように思えてしまう。しかし、実際に聴くとその考えはすぐに変わる。

 一言で纏めると、キーボードが尋常じゃない上手さなのだ。音の強弱、他の楽器との調和、全てを取っても完璧だった。その上、足りない分を補っているように曲に一切の隙間が無い。そして、そんな忙しいキーボードをフォローするように、ボーカルが良いタイミングで息継ぎや音を伸ばしたりするので、空白がしっかり穴埋めされるのだ。ギターとドラムは二人のタイミングをさらに綿密なものにするために、常にハッキリした音を奏で続けている。

聴いているだけで彼らの結束力の強さが十二分に窺える。そんなバンドだった。

 彼らが数曲歌うと、次に知らないグループが出てきた。どうやら主婦に人気らしく、ケンジの近くからも黄色い声が飛び交っていた。

 そんな彼らが歌い終えると、ついにライブも終盤に差し掛かって来た。司会の従業員にバンド名を呼ばれて出てきたのは、それぞれ白一色と黒一色の特攻服に身を包んだ男女5名のグループだった。

 「今人気沸騰中のヘヴンヴォイスさんです!横浜市民の皆様なら知らぬ者はいないでしょう!」

 そんな言葉に、観客の拍手喝采は一段と勢いを増した。唯一の女性が温かい出迎えに手を下して軽く制すると、拍手は次第に潜まっていった。

 女性はニコリと笑うと、マイクを取って観客に呼び掛けた。

 「初めまして、ヘヴンヴォイスです!今日はこんなに来て下さるとは思っていませんでした。本当にありがとうございます。私達が最後ということで、ぜひ楽しんでください!」

 歓喜や期待の歓声が店内を占める中、ケンジは女性の顔を見据え、一人呟いた。

 「……あの人達がヘヴンヴォイス。なんかごっついなぁ……」

 女性は司会とは違う疑似的な白髪のショートを目立たせた美人で、ペンキをぶちまけたような黒い
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