暁 〜小説投稿サイト〜
横浜事変-the mixing black&white-
日常が少しずつ苦みを帯びている事にケンジは気付かない
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らないと考えていた。家に帰ったら荷物を何度もチェックする作業に入ろうかと考えていたのだが、彼は変更点を付け足した。
――やっぱり礼儀として挨拶はするべきだよね。
ケンジは心中でそう考え、迷わぬ足取りで高島屋の中へと入っていった。
血と硝煙に溺れた日常と自分自身の心を、そして最近過労な自分の身体を少しでも表側の世界で浄化するために。
*****
高島屋の5階は婦人服やスポーツウェア、ゴルフウェアなどが販売されている階なのだが、店内全体リニューアル工事の理由で現在は一部のコーナーでしか販売を行っていない。そこで、品々を撤去したままの空虚な場所を急遽簡易ライブ会場として使う事にしたそうだ。
ケンジが人の流れに乗って到着した時には、5階のエスカレーター付近にも人が溢れ返っている状態で、従業員らが列を作るよう大声で呼びかけていた。このイベントのために工事されないコーナーの商品も従業員用スペースに撤去されたらしく、5階全体は広々としている。しかし、それでも限界が近いというのだから、イベント会場としての機能は果たせていないと言える。
――屋上でやればいいのに。この上の階に用がある人はどうするんだろう。
そう思って6階へ上るエスカレーターを見ると、案の定テープで通行不可になっていた。ライブが終わるまで通れないのだろう。つまり、今ここにいる人たちは全員ライブ目的という事になる。人混みに巻き込まれた人がいないだけ良かったかも、とケンジは心中でしみじみと呟いた。
従業員の誘導に従って、ケンジはコーンとテープで作られた簡易会場に入った。右前には急ピッチで仕上げたと思われるステージがあり、すでに楽器がスタンドにセットされている。ケンジの立つ位置からは予想よりも近く、苦労して見るような事にはならなそうだ。
そのときステージの壇上に『ネギ特価!買うなら今!!』という宣伝言葉がプリントされた法被を着た従業員がやってきた。頭部の半分を占める白髪と顔に浮かぶ無数の
皺
(
しわ
)
が、その従業員の日々の辛苦さをちらつかせる。
従業員は額に雫を溜めながら、精一杯の営業スマイルで客に対して呼びかけた。
「これから3組のバンドによる生ライブを開始いたします!まずはネット動画サービス『ガヤガヤ動画』などで人気を博した――」
従業員の呼びかけと同時に、スタッフルームから4人の男女が姿を現した。観客の拍手を浴びながらステージ上までやって来た彼らは、司会に促されて早速自己紹介を始めた。
最初は誰だか分からなかったが、ボーカルが『葉月』と名乗った事から彼らが若い年代に人気なバンドである事を思い出した。
――確かうちのクラスのオタク系男子達が話題にしてたっけ。
ついでにどうでも良い事も思いだし
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