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横浜事変-the mixing black&white-
日常が少しずつ苦みを帯びている事にケンジは気付かない
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方のこの時間にセールか何かあるのだろうか。とはいえ、自分には関係ない事なので、ケンジはそのままスルーしてしまおうと考えていたのだが、目の先に映った張り紙を見て、心臓が飛ぶような錯覚を覚えた。
 その張り紙には『緊急!高島屋5階にて生ライブ!』という大見出しが書かれていて、その下に2、3組のバンド名も記されていたのだが、

 ――ヘヴンヴォイスって、今日の仕事の対象じゃないか。

 しかし、今回の仕事はかなり特殊なものだった。何故ならケンジ達は人を殺すのではなく、護衛するからだ。そしてその護衛対象が、張り紙に乗っていたバンドの一つだった。

 ヘヴンヴォイス。今人気急上昇中のロックバンドだ。横浜から発信されたこのバンドは半年前に結成されたばかりなのに、ラジオ企画の生ライブを始め、少しずつ活動の幅を広めている。

 ボーカル兼キーボード、ギター、ベース、ドラムで構成されたヘヴンヴォイスの実力はベテランの作曲家から言わせても『実力派』らしい。相当の練習を重ねているとも語り、辛口評価の代名詞とも呼ばれる人物からのお墨付きとして人気を呼んでいる。

 中でもボーカル兼キーボードの金森クルミはその筆頭で、固定ファンをすでに掴んでいるほどだ。

 ――見ていきたいけど、前準備があるし……。

 今回の仕事はロックバンドのヘヴンヴォイスを外敵から守るというもので、詳しい事情は八幡から前もって聞いていた。

 どうやら、ヘヴンヴォイスは結成当初に暴力団との癒着があったらしく、ブレイク寸前のこの時期にまた絡んできたのだという。恐らく、過去の件をツタに上納金を貰おうとしているのだ、と八幡は説明してくれた。

 ヘヴンヴォイスは明日の朝9時頃から、赤レンガ倉庫と横浜税関を結ぶ山下臨港線プロムナードで行われるバンド祭に参加する。だがそこで問題が浮かび上がったのだ。それは、見ただけで分かる脅迫状だった。

 『明日のバンド祭までにお前らを殺す』。印刷文字で手がかりが全くないため、警察に出しても解決に結びつくとは言い難い。そこでやむを得ず、暴力団以上に街の裏に詳しい殺し屋組織にまで依頼をしに来たというわけだ。

 横浜の歴史あるホテル『ニューグランド』にヘヴンヴォイスを宿泊させ、ホテル内外に護衛を配置。特殊任務担当のチームAとC、非常時のためにチームBが後方支援で待機した、ケンジにとってかつてない緊張感を纏わせたミッションだ。

 母親には「友達の家に泊まる」と嘘を吐いて誤魔化したところ、何も指摘されずに承諾してくれた。今度は何か言われるかもしれないと身構えていたため、逆に『僕って見捨てられてるのかな?』と心配になってしまったほどだ。

 チームA以外の殺し屋と仕事をするのは初めてで、ケンジは新米である自分が一番先に着いていなくてはな
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