暁 〜小説投稿サイト〜
横浜事変-the mixing black&white-
狩屋達彦は目の前の少年に得体の知れない感覚を掴み取った
[5/6]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
たら……ま、生徒を脅すのもなんだから言わないさ」

 「大丈夫です、授業受けます」

 引きつり笑いを浮かべながら体育の教師を上手い具合に退けたケンジ。教師が黒板の方に向かって歩いていく後ろ姿を見ながら、心の奥底で安堵する。

 ――しまった、あの生徒指導の先生は寝るだけで反省文を5枚書かせる鬼だった。そっぽ向いて授業聞いていないところを咎められなかっただけ運は良かったね。

 その教師は10月なのに運動用のアンダーアーマー一枚で、腕に纏わりつく筋肉やうっすらと浮かび上がる腹筋が物理的な面でも危険な事を知らせていた。そんな物騒極まりない男教師は右手に持った教材を見ながらチョークで人の神経系についての用語を書いていく。そして気怠げそうな声を無駄に張り上げて言った。

 「体育なんてのはな、見て感動して覚えりゃ良いんだ。意味なんて必要ない。ルールを頭ん中で理解する力とやる気さえありゃ誰にでも出来る。それこそ英単語とか歴史なんかは意味が分からないと解き出せないし、楽しめない」

 教師にとっては6限目辺りで限界に達するであろう生徒達の集中力を強制的に呼び起こすために放った言葉なのかもしれないが、たった今教師によって眠気を散逸させられたケンジにはその言葉の効果は絶大だった。

 続いて教師は言葉を吐き出していく。

 「だから体育が苦手だって言ってる奴は損してるよ。確かに体格差とか身体能力はみんな違うが、ぶっちゃけそんなの関係ない。根性論に聞こえるかもしれんが、そんなのはやる気の問題だからな。何かを頑張ろうっていう意志を貫けば、運動音痴でも良い結果が望めるってわけだ。無駄が無くていいだろ?」

 ――……!

 ――確かにそうだ。それに、今の僕にも言える事かもしれない。

 ケンジの心に、曇天が消え去っていくような感覚が芽生えた。彼はもう一度外に目をやって心中で唱える。

 ――意味なんて必要ない。見て考えて、自分の意志で行動する。

――意志は必ず結果を伴う。手段や方法という仲間と一緒に。

 だからこそケンジは約二週間で見違えるぐらい変わった。普通ならあり得ない速度だし、内容も初心者の彼からすれば挫折してもおかしくなかったと狩屋は言っていた。けれど、それをクリア出来たのは何かを遂げようとする意志があったからだ。目的もなく何かに取り組む事ほど無駄で無茶な選択はない。

 ――なら僕は意味を無駄なものとして考える。そうすれば僕の戸惑いは消える筈だ。

 ――……もう戻れないね。

 もう一度外に目を向ける。少年は頭から重たいゴミが取り除かれたのを感じながら、同時に頭が冴えていく感覚を掴み取った。まるでこれからが本当の始まりだと悟っているかのように。
 最後に唱えた一言は、これまで住んでいた世界に対
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ