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横浜事変-the mixing black&white-
狩屋達彦は目の前の少年に得体の知れない感覚を掴み取った
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いうのがなかなかに面白かったりする。人が楽をする時に考える事は大抵同じ内容であるようだ。

 結果、ケンジは山垣学園に合格し晴れて高校生になった。それが一年半前のことだ。

 ――まさか一年半で人気が上がって入りにくくなるとは思わなかったけど。

 6限目の保健体育の内容を上の空で聞きながら、ケンジは心中でぼそりと呟いた。本来なら男子は体育館で卓球の予定だったが、他クラスとの授業進度の影響で筆記授業となったのだ。女子は通常通り校庭で持久走らしい。

一番窓際の一番後ろというベストポジションに座る彼は、窓の先に広がる景色に目を移していた。校舎内に立つ木々で景色が塞がっているところもあるが、それでも彼の目には僻遠(へきえん)の地にそびえ立つ横浜マリンタワーが微かに映っている。ここからの距離はかなりあるが、他の遮蔽物に邪魔されなかった結果、奇跡的に先端部分が視認出来るのだ。

 ――最近、本当に変わったなあ。

 そこで頭に浮かんでくるのは、もう二週間以上が経ったあの日。殺し屋に大事な人を殺され、それなのに何故か殺し屋に誘致されて、彼らの会合にまで参加してしまった非日常の2日間。そして今は自分すらも殺し屋になるための訓練を受けている。

 ――僕は一体どこに向かって走ってるんだろう。

 繰り出されるのは一日に何度も脳裏に浮かぶ曖昧模糊な自問。狩屋が作成した鬼畜メニューをこなしている時にふと思ったのが始まりだった。

 ケンジは一度やると決めた事にはほとんど変更点を加えたりしない、初志貫徹な人間だ。責務を適当に放り投げて知らず顔をしたり、あっさり白旗を上げて諦めたりするのを好まない。だからこそ本気で彼女の死を悼み、悲しみ、殺意を覚えた。それらは行動として昇華され、今の状態に至る。

 しかし、と彼はもう一度自分に問う。しかし、これは果たして本当に意味があるものなのか?彼女が自分に頼んできたわけでもない。八幡の言葉に乗せられたわけでもない。自分が取ってきた行動は紛れも無く自分の意志だ。

 ――でもそこには意味が込められていない。そんな空っぽな考えだけで僕は人を殺せるのかな?

 ケンジは頬杖を突く姿勢を解除し、顔を俯かせながら一人思案する。その目には明確な不安と迷いが色を帯び、耳朶を打つ音さえも自身の中から取り出していた。

 ――人を殺す。やっぱり僕には敵わない事なのかもしれない……。

 そのまま上半身を机に突っ伏して軽く眠ろうとしたケンジだったが――突然後頭部に衝撃を加えられた事で身体が不自然に振動を起こした。

 「わっ!」

 「お前、まさか俺の授業で寝るだなんて馬鹿げた事はしない、よな?」

 「……はい、しません」

 「なら良いんだ。でも次に机を枕代わりにしてるところを見かけ
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