暁 〜小説投稿サイト〜
横浜事変-the mixing black&white-
局長は姿を見せぬまま街の裏を台頭する組織について語る
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何か聞きたい事は無いかね?』

 「いえ、十分お話は聞けました。えと、ありがとうございました」

 『まぁ最初は生で血を見るのも辛いだろうが、その辺は覚悟してくれ。八幡君、彼の事は君達チームAに任せてもいいかい?』

 「了解。ありがとうございました」

 それから二言三言話して八幡は通話を切った。局長によると定時報告は月に2回あり、欠席してもお咎めは無いそうだが『基本的に欠席や遅刻はあり得ない』という暗黙の了解が殺し屋間で置かれているらしい。毎回夜を抜け出す事は出来るだろうかと、ケンジは少し心配になった。

 と、そこでちょうど心配の種からの電話が掛かってきた。ケンジは携帯のディスプレイに表示された『母さん』という文字を見て、露骨に嫌そうな顔をする。そんな彼を横目に、八幡はフッと笑いながら先に歩き出してしまった。

 慌てて彼の後を追い掛けながらケンジは電話を取った。耳から盛大な怒りの声が飛び込んできて肩をビクリとさせる。

 『ちょっと!いくら何でももう帰ってきなさい!今どこにいるの!?』

 「えっと、山下埠頭」

 『何でそんなところにいるのよ!今何時だか分かってる!?』

 そう言われて携帯の画面で時間を確認する。時刻を見たケンジは顔を思いきり引き()らせた。

 「じゅ、11時半……」

 『早くしないと電車乗れないわよ?補導されても知らないから』

 「そんな!」

 『明日学校なんだから、早く帰ってきなさいよ。私寝るけど』

 それを最後に母との通話が切れた。一方的に切られたのだ。茫然と携帯画面を見続けるケンジを見て、八幡は愉快そうに呟いた。

 「ちゃんと定時報告に顔を出せるか、これからの態度に関わって来るね」

 「はい、そうみたいです……」

 少しでも生活を改めるよう努力しよう。ケンジは赤レンガを横目に見ながら、いつものように溜息を吐いた。

 「ああそうだ。暁君、明日は空いているかな?」

 「明日ですか?はい、僕は帰宅部ですし、空いてます」

 「それは良かった。なら明日から始められるね」

 「?何を、ですか?」

 純粋に話の展開に追い着けなかったので、八幡に疑問をぶつけた。すると彼は長い黒髪を棚引かせながら、こう言った。

 「特訓だよ。人を殺すためのさ」

*****

 自分がなんと答えていたのかはよく思い出せない。だが気付けばケンジは自宅の部屋で布団を被っていた。時間は母親からの電話以来一度も見ていないが、深く眠れたところですぐに起床時刻を迎えるだろう。

 ――彼らは、そして僕も曖昧だ。

 ずっと喉元に引っ掛かっていた言葉。それを心中で呟く。その考えがケンジには的を射ているようにしか思えなかった。

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