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横浜事変-the mixing black&white-
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何も発さず、ただ直立している。ケンジには永遠とも思えた状態だったが、突然相手が動き出した。自分の方に向かってゆっくりと歩み寄ってくる。
顔も服装も識別出来ない謎の人物がこちらに迫っている。相手の靴が生み出すスタッカート調の打音は、まさに死へのカウントダウンそのものだった。
だが、その人物はケンジとの距離を適当に取ったところで足を止めた。そこでケンジはやっと相手の顔を視認する事が出来た。
顔の輪郭はシャープで目や鼻の位置が整っている。その時点で眉目秀麗な人だと分かった。また、眼鏡をかけているのでとても理知的に見える。長髪の黒髪は背骨辺りまで伸びているのか、とても女性らしい顔だった。
服装は白と紺を基調とした洋風のジャケットと黒と紺のチェックパンツ。全体像を見ると、どこか中性的なイメージが湧いてくる。
その人物は開口一番にケンジに尋ねてきた。
「君は、関係者かな?」
その声を聞いて、ケンジは『やっぱり男性か』と改めて心中で呟き、次に緊張が解けていくのを直に感じた。口内に水分が戻るのがよく分かる。先程からずっと出来ていなかった呼吸も復活した。
「その……関係者、って何ですか?」
「……どうやらそういうわけではなさそうだな。君は一体ここで何をやっている?」
質問に質問で返され、思わず動揺してしまうケンジ。だが眼前の男が会話の通じる相手だと分かった事で、幾分か落ち着いていた。自分にも言い聞かせるように、ゆっくりと言葉を吐き出していく。
帰り道に使っていたと正直に伝えると、男は「そうか」と言い、次に咎めを含ませた言葉を紡いだ。
「時間的に余裕があるとはいえ、路地裏を近道として使わない方が良い」
「あっ、はい。すみませんでした」
「……」
「……え、と。あの、何でしょうか?」
「……君、今復讐しよう、とか考えていないかな?」
「え……」
「その顔、どうやら当たっていたみたいだね」
フッと静かに笑い、男は自身の右手をケンジに差し出してきた。何かあるのかと自然にそちらに目をやり――彼はすぐに目を逸らした。
男の手に握られていたのは、一本のナイフだった。しかも三分の一程度が誰かの血液で汚れている。まるで使ったばかりのような、と考えたところでケンジは数分前の『音』を思い出す。
今まで聞いた事の無いような不快な音。そして誰かの呻き声。十字路を右に曲がった先。眼前の男。そこでケンジは男の左腕の服に赤い鮮血が迸っている事に今更になって気付いた。
男は右手を元の位置に戻し、次に一つの単語を呟いた。
「殺し屋。それが私の職業だ」
「……」
殺し屋。それはこの街にはいないとされていた、おとぎ話レベル
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