第八章
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第八章
(去ってはならない。貴方は)
(そう)
それにアーダベルトも心の中で頷いた。だがでる言葉は。
「我が妻よ、それはできないのだ」
拒む言葉であった。魔女オルトルートを祈りで倒しエルザの弟であるゴッドフリートを返すと彼は去る。後に残ったエルザは悲しみの後で息絶える。これが全ての終わりである。ローエングリンの。
カーテンが下り全てが終わった。しかしそれは全ての終わりではなかった。
「これからだ」
またあの老人が言った。
「これからはじまるんだ」
「これからですか」
「そう。これからだ」
またこれからと言うのであった。
「それがわかるのはこれからだ」
「舞台が終わったのにですか」
「舞台は終わった」
それは事実であった。否定しようがない事実であった。
「ローエングリンとエルザは。いや」
「いや?」
「それもまた舞台だけのことか」
老人はふとこう思いなおしたのであった。
「舞台が終わっても話が続く」
「それならば」
「そうだ。まだ話は続く」
舞台で別れたとしてもだ。まだ二人はいる。そういうことであった。
「あの二人もまた」
「どうなるのですか?」
「それはこれからだ」
老人は閉じられたカーテンを見て言うのだった。カーテンコールはまだ先だ。しかし彼はそのカーテンコールについても言及してみせた。
「これからな。そして」
「そして」
「わし等はそれも見ることになるだろう」
これが彼の予想であった。
「さあ、どうなるか」
また言う。
「見せてもらえるかな」
そう語る口の端が少し笑った。その舞台が終わった後で。アーダベルトとエリザベータはまたあのレストランで二人一緒の席にいた。そこで向かい合って話をしている。
「まずは終わりましたね」
「はい」
エリザベートは彼の言葉に静かに頷いた。
「これで舞台は」
「そう、舞台は終わりました」
今度はアーダベルトが頷いた。エリザベートのその言葉に。
「ですがあの二人は」
「どうなるのでしょうか」
「私は。それを知りたくなりました」
彼はこう言うのだった。
「これからどうなるのかを」
「私もです」
そしてそれはエリザベータも同じであった。
「エルザとして。そして」
ここで言葉を変えた。慎重に。
「エリザベータ=タラーソワとして」
「そうですね。私もまた」
アーダベルトもまた同じであった。二人は何処までも同じであった。
「アーダベルト=シュトルツィングとして。同時にローエングリンとして」
「不思議ですね」
エリザベータはその中でまた言葉を述べる。
「違う世界にいる同士なのに。そしてこちらの世界ともまた違うというのに」
「異なる世界でも」
ここでアーダベルトは言うのだった。
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