第七章
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心が完全に混ざり合っていた。その中で。さらに言葉となっている歌を紡ぎ合うのであった。その白い絹の様な歌を。
声を紡ぎ合わせ第三幕に入りそうして。二人の婚礼の場でもそれは同じであった。
「最早世の煩わしさに悩まされてはならない」
ローエングリンは歌う。
「エルザ、我が妻よ」
今妻と呼んだ。
「貴女は幸せか」
「私の呼吸する歓喜こそ神だけが与え得るものなのです」
これがエルザの返す言葉だった。エリザベータの。
「これをただ愛と呼んでいいのでしょうか」
二人は愛を確かめ合う。しかしローエングリンの世界においては別れが近付いてきていた。ローエングリンはこの第三幕で終わる。その最期は二人の悲しい別れなのだ。
「さて、これからだな」
「そうだな」
観客達は固唾を飲んで二人を見守っていた。
「ローエングリンとエルザか」
「それとも」
違う二人なのか。それはまだわからなかった。
だが別れの場面になった。名前を名乗ったローエングリン。
「禁じられた問いに対する私の答えを聞いて頂こう」
いよいよ名乗る。ローエングリン最大の聴かせ所であるローエングリンの名乗りの歌の中でもクライマックスの場面だ。ここで彼は宣言するのだ。
「聖杯に仕える騎士である私の名は」
ここでようやく彼のことが舞台の上でわかるのだ。
「ローエングリンという」
遂に自ら名乗った。その長剣を腕に抱きながら。今白鳥の騎士が自らの名を名乗ったのであった。
これは同時に別れの言葉なのだ。これを告げたからにはローエングリンはエルザの下から去らなければならない。それがローエングリンの世界なのだ。
「貴方をここから去らせはしません」
(何があっても)
ここでも二つの心が完全に混ざり合っていた。
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