第五章
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これはアーダベルトの心からの言葉であった。
「二人が結ばれれば。よかったのにと」
「ですが結ばれる運命にはなかった」
それがこのローエングリンの悲しみの理由なのだ。ローエングリンは他の世界、聖杯の城モンサルヴァートから来た異邦人でありエルザのいる人の世界、ブラバントにはいない。だから二人は結ばれる筈がなかったのだ。しかしこの世界に今いるローエングリンとエルザはどうなのか。
「二人が同じ世界にいれば」
「結ばれましたね」
「はい、きっと」
アーダベルトは言うのだった。言葉と共にふとあることに気付いた。
「そういえば」
「どうされましたか?」
「今の私達は同じ世界にいますね」
気付いたのはそこであった。
「同じ世界に」
「ローエングリンの世界に」
「そうです」
彼女の今の言葉に頷いた。
「同じ世界にいます。それはローエングリンの世界でありながら」
「この世界でもある」
「こう言うと何かよくわかりませんね」
自分でそれをあえて言う。確かにそれはあい矛盾するものであった。
「ですがそうだと思います。この世界は一つではなく複数の世界が重なり合っているのではないでしょうか」
「複数の世界がですか」
「ですから」
彼はまた言った。ワインを一口含んでから。
「あの世界では決して二人は結ばれませんね」
「はい」
これはもうわかっていることだ。モンサルヴァート、つまりこの世界ではない場所から来た異邦人であるローエングリンがブラバント、こちらの世界にいるエルザと結ばれる筈がないのだ。しかしである。運命はそうであっても心はどうなのか。それが問題なのであった。
「ですが心は」
「心はどうなのでしょうか」
エリザベートはアーダベルトの話に入り込んでいた。身こそ乗り出してはいないがそれでも話に入り込んでいるのは事実であった。
「心は結ばれていました」
アーダベルトの答えは決まっていた。
「心は」
「それでしたらその心が結ばれた二人であることが大事なのですね」
この時エリザベータは自分の言葉はローエングリンの世界だけでのことだと考えていた。しかしそれは違っていた。だがそれには自分では気付いていないだけであった。
「ローエングリンは」
「そうです。結ばれていたとしても離れなければならない」
話はそこであった。
「その悲しみがあの作品のテーマの一つです」
「まさにロマン主義ですね」
そこまで話を聞いてそれを感じるのだった。
「ローエングリンというのは」
「そう思います。ですから私も」
アーダベルトは今度はエリザベータのその言葉に応えた。
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